2007年のテレビアニメ「電脳コイル」で一躍注目が集まった「AR」(Augmented Reality:拡張現実または強化現実)技術。近未来を舞台にしたこのアニメには,重要なアイテムとして,実際には存在しないさまざまなモノ(=デジタル情報)が実際の空間にあたかも存在するかのように見える「電脳メガネ」と呼ばれるメガネが登場する。

 ARは,現実の空間にデジタル情報を重ね合わせて見せる技術の総称。「電脳メガネ」はまさにAR技術を具現化したものだ。

 筆者は今,このAR技術を弊社主催の展示会「ITpro EXPO 2009」(10月28日~30日,東京ビッグサイト)で実験するための準備を進めている。その中で,現在の状況でARアプリケーションを構築するためにはいくつかのハードルが存在することを痛感している。IT企業ではないメディア企業の日経BP社が,IT技術の最先端ともいえるAR技術を展示会に活用しようとするわけで,そう簡単に実現できるわけはないと理解していたつもりだが,現実はなかなか厳しい。

 今回は,そうしたハードルの中から端末について取り上げて考えていく。

以前はノート・パソコンが有力だった?

 現在のARの端末事情を考える前に,ちょっと過去にさかのぼってみたい。

 ARを「最先端のIT技術」と書くと,違和感を感じる読者が多いかもしれない。ARというコンセプト自体はかなり以前からあるからだ。実を言うと,筆者も7年前に一度,この「記者の眼」でARについて書いている。2002年5月29日の「無線LANアクセス,お楽しみはこれからだ! キーワードは“Augmented Reality(強化現実)”」である。

 この中で筆者は,究極的なAR端末を「自分の位置を捕らえるGPS機能を持ったウエアラブル・コンピュータに,視線を捕捉する機能とビデオカメラを備えたヘッドマウント・ディスプレイをつないで使う。頭がどっちの方向を向いているかを判断するジャイロ・スコープも必要かもしれない。さらにパソコンには,画像認識機能とさまざまな情報を管理するデータベース・システムが不可欠になる」と書いた。ただ,当時の現実的な解としては「端末にはノート・パソコン,通信インフラには無線LANがよい」とある。

 その理由は主に四つあった。それは,(1)CPUの処理性能,(2)ディスプレイの表示画素数,(3)位置測定の正確さ,(4)通信速度の速さ---である。