日経コンピュータでは毎年、IT企業の製品/サービスを対象に顧客満足度調査を実施している。14回目を迎えた2009年の結果は、“激震”と呼べるほどにランキングが大きく変動した(関連記事)。

 記者による取材結果を加味した特集記事のタイトルは、「ともに考え、ともに進む-順位を上げた『考える会社』」とした。顧客満足度向上は、IT企業各社にとって大きな経営課題の一つである。だが、利用企業とIT企業とがともに考え抜き、“喜び”を共有できなければ、満足度は高まらない。

利用企業とIT企業のそれぞれが果たすべき役割

 顧客満足度調査の結果に対して、IT企業各社は常に高い関心を寄せている。どの会社も結果を詳細に分析し、次回に向けて対策を練る。その真摯さには頭が下がる思いだ。

 調査実施者としては、この調査をより精度の高いものにしていきたいと考えている。今回のように順位が大きく変動すれば、結果が悪かった会社はもとより、結果が良かった会社も、経営層や顧客満足度向上を進める部署などを中心に、対応策に追われることは間違いないからだ。

 「現場への到着時間といった数値は改善している。なのに、なぜ満足度が下がっているのか」---。各社はこのような難問に直面し、解答を模索する。

 残念ながら、我々も正確な答えは持ち得ない。それでも、アンケート調査と並行して実施する取材から、原因らしきものは浮かんでくる。そこには、大規模なシステム障害や顧客企業との裁判、グループ会社再編などの企業戦略など、様々な要因が絡んでいる。こうしたマイナスイメージを払拭できるほどの、現場の動きにも出会うこともある。

 各回の特集記事のタイトルは、こうした記者の感覚を反映したものだ。第10回からの主タイトルを並べてみると、第10回が「こんなベンダーは嫌われる」、第11回は「もっと対話を」、第12回は「もうベンダー任せにはしない」、第13回が「このベンダーに惚れた」。そして今回が「ともに考え、ともに進む」である。第10回を掲載した2005年は、IT企業がプロジェクトの失敗などで大きな赤字を抱え、受注のひな型作りを急いでいた頃だ。

 この変化を要約すると、“なんでもやります”と言ってきたIT企業が疲弊し、利用企業が自ら立ち上がった。しかし、利用企業だけではシステムを設計/構築できないことに気付き、パートナーに値するIT企業を選び、新たな関係が構築されようとしている、ということになるだろう。

「ほめる」は上から目線?

 こうした変化を受けて、IT企業の顧客満足度向上に向けた取り組みも変化している。より速く、より正確に、顧客の要望にこたえるというのは同じだ。変わったのは、“失敗しない”ことに重点を置いた各種マニュアルの整備にとどまらず、より顧客の現場に飛び込み、利用企業の視点で動こうとする活動が目立ってきた点である。

 そうした代表例の一つが、富士通エフサスが2009年1月に開設した新たなホームページ「感動・感激HomePage」だ。そこには、「夜間の緊急対応にもかかわらず一晩で障害対応を完了してくれた」など、顧客からの感謝の言葉が掲載されている。

 感謝された事例を共有することで、より信頼されるパートナーになるためのヒントをつかみ取るのが目的だ。何より、ホームページに掲載されたこと自体が、担当者の喜びになり、励みになるという。

 ここ数年、現場のやる気を出させるために使われたキーワードは「ほめる」である。「頑張っているね」「その発想は素晴らしい」「良くできました」「グッド・ジョブ!」など、まずはほめよという。叱られるよりはほめられるに越したことはないが、「育てる」という教育的な姿勢では、対等な関係は築けない。最近では、ほめすぎを反省する声も少なくない。

 それよりも「感動・感激HomePage」ではないが、「喜ばれる」のほうが大切である。喜ばれたから「次も頑張る」「これまでの苦労が一気に吹き飛んだ」といった気持ちをお互いに持つほうが、元気がでる。

 ビジネスとしてシステム構築に臨むのだから、すべてがすべて好き勝手にできるはずがない。衝突もあれば妥協もある。疲労困憊もするだろう。それでも「喜び」「楽しみ」を共感できれば次に進もうと思えるのは、誰にも同じではないだろうか。

 ただシステム構築における問題は、何かをやったからといって、すぐ喜んでもらえるとは限らないことだ。システム障害なら、復旧時に喜びを共感できるが、何年も稼働しているシステムなどでは、設計者らの意図が正しく認識されるのは、数年先かもしれないし、次のシステムに切り替えてからになるかもしれない。取り組みと結果には時差があることを、利用企業もIT企業も忘れてはならない。

 なお、今回の調査結果を種々の軸で集計し、回答者の自由意見を含めた詳細 データを、ハードウエア、ソフトウエア、サービスの分野ごとに別途用意している。興味のある方はこちらをご覧ください。