「IT業界を元気にするには」。2009年に一番多く書いたテーマである。2月から今までに4本書いている。

技術者がチャレンジ精神を失ってしまったら---小林一彦・NEC顧問の危機感
企業情報システムの現場に漂う閉塞感
「SEの頑張りが日本を元気にさせる」,東京海上日動の横塚常務
SNS、Wiki、ブログは技術者集団の活性化に役立つか

 このテーマの取材はまだまだ続けたいと考えている。普段はIT業界各社の経営層に話を聞くことが多いのだが,一度,業界外の専門家に「IT業界を元気にするために何が必要か」を聞いてみたいと考えた。

生産革命を起こせ

 人材育成事業を展開するジェイフィールの野田稔社長を訪ねた。野田氏は,モティベーション管理や職場の人間関係の向上などを専門とするコンサルタントである。約20年間,野村総合研究所に勤務し,組織人事,経営コンサルタントとして過ごした後に,業界を飛び出した人物である。

 「生産革命を起こせ」。これが,IT業界,特にソフト開発会社に対する野田氏のアドバイスである。ここで言う生産革命とは,開発生産性を大幅に高めることだけを指すのではない。技術者の働き方を抜本的に見直し,元気にさせることも生産革命だと言う。

 これまで何度も書いたことだが,ソフト会社の多くはこの30年間,ユーザーの要求に対して受身の姿勢で仕事をしてきた。納期が遅れそうになれば、「なんとか間に合わせろ」とプロジェクトに投入する人間を増やすだけ。質的な改善,構造的な改善には目を向けてこなかった。その結果,ソフト開発は労働集約型の権化のような業務になってしまった。人が財産のはずなのに、技術者がまるで部品のように扱われていると感じることすらある。

 では生産革命で何をするのか。古くは家内制手工業的なやり方に始まったソフト会社は,今や大量の人を集めた労働集約型の大規模工場のような状態になっている。これを機械化,自動化,多能化する。

 野田氏によれば,製造業や流通業がたどってきた改革の道筋が参考になるという。例えば,トヨタ自動車のTPS(トヨタ生産システム)をソフト開発の現場に取り入れる。最後に品質チェックをするのではなく、システム部品の段階で実施する。あるいは,一つの機能をチームで開発する、といったことである。

 こうした改革は,効率化の側面だけをとらえがちだが,人間に本来不向きな作業内容を見直すなど,無理のない業務を実現することが,ひいては効率的で持続性のある業務プロセスにつながるという側面もある。

 「製造業も、かつては人をしいたげていた時代があった。だが,生産性を上げるには人を大切にしなければならないということに気付いた」(野田氏)。流通業でも,パートや契約社員といった非正社員を支える仕組みを作る企業が出てきた。例えば非正社員に対し,会社がキャリアパスや育成支援策などを用意し始めた。