NTTデータの幹部が本気で心配しているらしい。何かと言うと、米国のITベンダーによる“中抜き”である。買収などによって巨大化し、総合ITベンダー化した米国企業が、自らの顧客に食手を伸ばしてくる。つまり、プライムの座が危うい。果たして、そんなことがあり得るのか。私は、NTTデータの心配はもっともだと思うのだが。

 海の向こうは、最近騒がしい。オラクルがサン・マイクロシステムズの買収を決め、シスコシステムズがサーバー市場に参入した。そう言えば、マイクロソフトは「Windows Azure」という名のアウトソーシング・ビジネスに参入する。おっと、HPは少し前にEDSを買収したっけ。シスコとEMCの仲も怪しいぞ・・・。

 そんなわけで、今や米国のIT業界は「領域侵犯」が当たり前。あれほど素晴らしい成功モデルとされた水平分業は過去のものとなりつつあり、IBM、そして富士通やNEC、日立製作所と同じような垂直統合が新たなビジネスモデルと喧伝される。もちろん、完成形のオラクルを除けば垂直統合と言っても部分的だが、それにしても「意思決定が遅れがちになる垂直統合は過去の遺物」と揶揄していた時代とは大きな様変わりだ。

 何でこうなったのか。話を丸めると、「クラウド時代への対応」ということになる。パブリック・クラウドか、プライベート・クラウドかを問わず、情報システムは巨大なデータセンターに集約される方向にある。だから、これからはそのデータセンター向けにすべてのITインフラを提供できなくてはならない。また、場合によってはクラウドと言う名のアウトソーシング・サービスも提供する必要がある・・・。

 まあ、かなり怪しい説明だが、これが本論ではないのでとりあえず放置する。今回の話のポイントだが、実は米国のITベンダーの総合化(=すべてを提供する)ではない。問題はITベンダーの直販化である。最近では、大手ユーザー企業を対象に米国のITベンダーが直販に乗り出すケースが増えているが、今後そうした動きが加速するだろう。より正確に言えば、「すべてを直接提供する」ようになるのである。

 で、冒頭のNTTデータの幹部の心配事になる。米国のITベンダーはいつまで自分たちをパートナーと見なしてくれるのか、というわけだ。ただNTTデータは、富士通やNECですら下請けとして使う企業である。総合化した米国のITベンダーがいくら直販を志向したところで、有無を言わせず下に入ってもらえばよい。普通に考えれば、その通り。儲かるのであれば米国のITベンダーだって、これまで通り喜んでNTTデータに協力するだろう。

 ただNTTデータには、いまだ大きな弱点がある。グローバル対応である。グローバル化した日本の大企業の多くは、全世界の拠点に対する包括的なITサポートを、取引のあるITベンダーに対して期待している。それができないとなると、ユーザー企業はグローバル・パートナーとなり得るITベンダーを海外に求めざるを得ない。米国のITベンダーにプライムの座を追われるのは、おそらくそんな時だろう。

 随分前に書いた話だが、実際にNTTデータにはそんな“トラウマ”がある。上流のコンサルで顧客から高い評価を得ながら、「グローバル・サポートはできるか」と問われて、「頑張ります」としか答えられなかったことがあった。結局その案件はIBMにさらわれた。今、NTTデータが欧米企業の買収を繰り返し、グローバル化に血道を上げるのも、こうした文脈で見ると極めて分かりやすくなる。

 こうしたことは当然、富士通やNEC、日立、そして他の大手SIerにも当てはまる。グローバル化を急がなくては、日本の大手ユーザー企業のプライムであり続けることはできない。もちろん、顧客はドメスティック企業だけでよい、あるいはどこかのプライム・ベンダーの下請けでよいと思うなら、話は別だが。