景気の動向はやはりかなり厳しい。予想されたこととはいえ、奈落へ向かって滑り落ちていくような感覚は、何度経験しても嫌なものだ。中間決算の発表はこれからだが、多くのITベンダーで上期の業績はともかく、受注残が急速に減っているのは間違いないだろう。ただ今は、IT業界にとって大きな変革期だ。奈落が怖くて目をつむっている暇はない。

 いつものことながら、こういう時期はITベンダーによって業況感のニュアンスが違う。金融機関のシステム開発をこなしている受託ソフト開発会社などのITサービス会社なら、このご時勢でも「急に仕事がなくなるわけではないので、当面は大丈夫」と言う。確かに金融分野は、レギュレーションの日常的な変更でシステム開発・変更の仕事が急に干上がることはない。

 一方、グローバル競争にさらされている製造業なんかは、一斉にIT投資に急ブレーキがかかる。「全社一律のコスト削減、投資の一斉見直し」などと大号令がかかり、新規のシステム開発案件なんかは真っ先に凍結の対象になってしまう。しかも、情報システム部門が主管する基幹系システムならまだしも、数字を作らなければいけない事業部が予算を握る、いわゆる“前向きなIT投資”は一発で再検討の対象だ。

 かくして、こうした企業を顧客に持つITベンダーは、今後かなり厳しい経営環境に立ち至るだろう。特に基幹系システムに大した足場を持たない非メーカー系のSIerには辛い季節だ。それにしても、景気後退期に真っ先に“被害”を受けるのは、いつものことながらユーザー企業の前向きなIT投資を支える、こうした比較的アグレッシブなITベンダーである。

 で、これまでの通例なら、猫も杓子も金融機関のトラディショナルな案件の仕事を取ろうとする。そうは言っても金融機関とのプライム契約なんか無理だから、下請け、二次下請けに回り買いたたかれる。当然ソリューション・ビジネスの理想とは程遠い世界だ。まあ、金融分野の需要がIT業界にとって安全弁になっていたと言えないこともないが、いつまで経っても人月単価、多重下請け構造から脱却できない要因にもなっていた。

 さて今回、またいつか来た道にするのか。さすがに、それはないと信じよう。ここ数年、ITベンダーは単なる受託ビジネスからソリューション・ビジネスへの転換を図り、それぞれのお客を深耕してきたはずだ。

 今、多くの大手ユーザー企業でANDをとれる最大の懸案は、肥大化したシステムの統合、IT自体の効率化だ。「それは以前からでしょ」と言うことなかれ。日本企業でもM&Aが当たり前になったこともあり、社内のシステムはいろんなものが混在し、まさに無茶苦茶な状態。システム統合、せめてITインフラだけでも統合したいというニーズは、これまで以上に高い。

 問題は景気後退期に、そんな“不要不急なIT投資”が可能かということだ。ただ、間違ってはいけないのは、今の日本の景気は後退しているが、まだ不況ではないということだ。つまりユーザー企業にキャッシュはある。奈落への備えるための投資は、今が行うべき時である。将来のITコストの削減につながるのなら、ITインフラ統合などへの投資は今が旬なのだ。問題は、ITベンダーからいかに有効な提案を行えるかである。

 「TCO削減の話でしょ。それも以前から提案しているよ」と再び言うことなかれ。実はそろそろユーザー企業もクラウド・コンピューティングの可能性に着目し始めている。物理的にも製品的にもバラバラのITインフラを統合し、仮想化技術などによりアプリケーションとITインフラの分離を進めた後は・・・。

 「ユーザー企業がITインフラを所有、運用する必要があるのでしょうか」。そんな提案がユーザー企業に響けば、短期的には景気後退、中長期的には“クラウドの時代”にITベンダーが生き残っていく道筋が見えてくる。中堅・中小企業をターゲットとしたSaaSビジネスなどと共に、ITベンダーが今から本気で取り組むべき課題である。