ユーザー企業で再び情報システムの内製化に向けた取り組みが活発になっているという。実際にここ半年ほどでユーザー企業からそんな話をよく聞くようになった。ところで、その一方でSaaSやクラウド・コンピューティングの流れがある。まるで正反対の動きに見えるが、実は同一線上にある。刺激的、かつ表面的に言うと「SIerを外そう」ということだ。

 内製化と言っても、いまさらスクラッチでシステムを組み上げる話ではない。日経コンピュータも特集したが、システム開発の外注化で失われた、業務要求の取りまとめ、要件定義、仕様の確定、プロジェクト管理など本来の情報システム部門の能力を取り戻そうという動きだ。もちろんパッケージ・ソフトの活用を前提に開発も行う。外部のITベンダーを使う場合でも、一括請負を止めて、準委任や派遣で手伝ってもらう。つまり、自己責任でシステムを作りましょうというわけだ。

 本来なら、これはもう当たり前の話。ITベンダーの人なんかは、よく「ユーザー企業のシステム部門の劣化がひどい」と嘆きとも嘲笑ともつかない話をするが、ユーザー企業としてもシステム部門が自社の業務もIT技術も分からないでは話にならない。少し前ならシステム部門に見切りをつけて、ITベンダーにフルアウトソースしようかという話だった。ところが最近、それでは調子が悪いことが、いろいろと出てきた。

 システムをITベンダー任せにする弊害として、以前から言われていることは、今回は取り上げない。今いまの問題に焦点を絞るが、それは「提案の凡庸性」と「スピードの欠如」だ。ITベンダー(この場合はSIerだが)にシステム開発を丸投げすると、ニーズを十分に汲み取れない在り来たりの提案しか出てこないし、システムの完成も遅すぎる。「これじゃ、たまらん」ということで、システムの内製化の強化を図るユーザー企業が増えてきているのだ。

 これは二つの面で、いわば歴史的必然である。まずITベンダー、SIer側から言うと、最近は各社ともわざと凡庸な提案を出している。要件定義が曖昧な段階で、真のニーズにフィットした提案なんて出せないし、失敗リスクも怖いので、メジャーなパッケージ・ソフトを使ったガチガチの提案しかしない。これは、かつての大赤字プロジェクトの苦い教訓から来たものだ。かくして各社の提案は似たり寄ったりになる。

 それでもユーザー企業はコストを下げようと、5社、10社を集めてコンペをやるから、当然、商談のプロセスは長くなる。ITベンダー、ユーザー企業とも最近は内部統制の観点から取引・契約の手続きも煩雑になっており、ますますITベンダーが選定され開発に着手する時期が遅くなる。つまり、あうんの呼吸やドンブリ勘定で仕事をしていた昔に比べて、プロジェクトの前段階のスピードはガタ落ちしている。

 一方、もう一つの面だが、ユーザー企業のシステムに対する要求は、以前に比べてはるかに多様で、しかも「早く作ってくれ」である。利用部門からすれば、自分で詰め切れていない業務要求を明快に説明することを求められ、しかもコンペなんかしていると開発着手は2~3カ月後。もう何とかしてほしい・・・まあ、わがままな話なのだが、システムがビジネスの重要インフラとなった今では、それもやむを得ない。

 で、システムの内製化という話になる。少し頼りなくても、身内で業務を多少なりとも分かっているシステム部門が利用部門の脇にいてスピーディに開発してもらったほうがよい。ビジネスのタイミングを逸しないように早くシステムが使えることが重要で、多少の欠陥は動かしながら修正すればいい。システム部門が弱体化してそんな芸当はできないって・・・それなら今のご時勢、ITベンダーから転職を希望する技術者はいっぱいいるだろうから、彼らを雇えばよい。

 かなりアバウトに書いたが、システムの内製強化に乗り出したユーザー企業の思いはだいたいそんなところだ。とすると、SaaSなどの「システムを作らないでサービスとして利用する」というトレンドを、どう解釈すればよいのか。

 それは内製化の発想と同じだと考えれば、簡単な話だ。システムには、その企業固有の付加価値の高いものと、どこを使ってもコモディティ化したものがある。コモディティ化したシステムは作る必要も、パッケージ・ソフトとして買う必要もない。サービスとしてあるなら利用すればよい。そのほうが必要な時にスピーディに利用できる。かくしてSIerというビジネスの領域は確実に狭まりつつある。さて、どうしたものか。