写真1●四条大橋西詰めにある「出雲屋」にて
写真1●四条大橋西詰めにある「出雲屋」にて

 9月の終わり,急に思い立って嫁さんと京都へ行った。今年の秋はどこへ行こうかと思案していたのだが,嫁さんが川床(かわゆか)を経験したことがないので夏が終わる前に行くことにした。川床は納涼床ともいい,鴨川の右岸に並ぶ料亭が座敷を川の上まで張り出してオープンエアーで料理を楽しめるようにしたものだ。

 筆者がよく利用するのは,四条大橋西詰めにある「出雲屋」だ。四条大橋を行き来する人や対岸にライトアップされた南座が見えるのが気に入っている(写真1)。料理は,夏の名物であるハモやうなぎなど旬の素材を生かした懐石料理だ。真夏の京都は夜でも暑いのだが,さすがに9月の終わりともなると川風がひんやりしていた。

 さて,企業ネットワークを料理に例えると,その素材として使える回線サービスは実に多様化し可能性が広がった。さらにキャリアが素材を組み合わせて作ったコンビニ弁当のようなサービスも現れている。今回は豊富な素材を使って,いかに「おいしい」企業ネットワークを作るか,をテーマにしたい。

企業ネットワークを構成する素材

 企業ネットワークの素材をモデルにすると図1のようになる。回線サービスの種類は山ほどあるのだが,図1は主要なものに集約している。前回のコラムで書いたように,これからは国内でしか事業をしていない企業も,データセンターを海外も含めてどこに置くか,SaaSやPaaSといったサービスを国内で調達するか,海外から調達するか検討せねばならない。

図1●企業ネットワークを構成する素材
図1●企業ネットワークを構成する素材

 この図では国内資源として基幹系システムを,海外資源としてBCPシステム(Business Continuity Planシステム:災害時のバックアップシステム)を書いているが,これはあくまで一例であり,企業のニーズや考え方次第で変わることは言うまでもない。すでに,国内企業なのに基幹系システムを海外のデータセンターにハウジングしている事例があるのは前回述べたとおりだ。

 ちなみに,日本では東京でも地方でもハウジングの費用はラックあたり月20万円程度が相場だ。これがマンハッタンだといくらかご存じだろうか? 約10万円だ。米国内でもっともデータセンターの料金が高いニューヨークと地方では2倍以上の価格差がある。そのニューヨークで日本の半分程度の料金なのだ。国内企業が米国にハウジングを始めたのも無理のないことだ。

 グローバル・プロキュアメント(ネットワークを使って海外のデータセンター,サーバー,ソフトウェアなどを調達すること)をする上で,海外のネットワーク素材として何を使うかはこれから重要なテーマになる。

 また,2010年頃に3.9G(3.9世代)で100Mビット/秒以上の帯域幅が実現されるワイヤレス・ブロードバンドは,大規模拠点では光ファイバの補完,小規模拠点ではその代替として固定通信の主要な素材の一つになった。現在のワイヤレス・ブロードバンドはインターネット経由でのサービスが主流だが,企業ネットワークでの需要が伸びればインターネットを介さず直接ケータイ通信網を企業ネットワークに光ファイバで接続する直収型のサービスが増えるだろう。

 企業にとってより経済的,効果的なネットワークになるように,これらの素材からサービスを選択し組み合わせることが,「おいしい企業ネットワーク作り」ということになる。

コンビニ弁当の限界

 素材を選択し組み合わせることはユーザーや,ユーザーの立場でそのサポートをする筆者のようなSIerの大事な仕事なのだが,この2,3年,キャリアが素材を組み合わせて一つのサービスにしてしまう,言わば「コンビニ弁当」のようなサービスが登場している。例えば,広域イーサネットとIP-VPNをキャリアの内部で接続して一体化したサービスとして提供している。さらに,足回りとしてFTTHやワイヤレスを提供しているキャリアもある。

 コンビニ弁当の良さは素材をいろいろ吟味する手間も,組み合わせる知恵もいらない手軽さだ。しかし,コンビニ弁当には三つの問題がある。

 第一に,単一のキャリアが多様なサービスのすべてで,他のキャリアより優れていることは現在も,将来もまずあり得ないことだ。単独のキャリアでベストな素材をそろえることは出来ないということだ。例えば,ワイヤレス・ブロードバンドで固定通信に適しているのはイー・モバイルだ。定額料金でプロトコルが自由に使え,通信速度や接続時間に制限がないのは一部のMVNO(Mobile Virtual Network Operator:仮想携帯通信事業者)を除くとイー・モバイルのサービスしかない。だが,イー・モバイルは広域イーサネットなど光ファイバ系のサービスは持っていない。

 第二に新しい技術や素材をコンビニ弁当として仕立てるには時間がかかり,変化にすばやく対応できない。キャリア・サービスは技術的検証や約款の整備,制度的手続きに相当な時間がかかる。良いものをすばやく企業ネットワークに取り込むことが出来ない。これに対してユーザーが素材を選択し組み合わせることはすばやく,簡単に出来る。以前このコラムで紹介した京葉瓦斯のネットワーク(Notesをオープンソース・ベースのグループウエアで更改---京葉ガスのコンバインド・コミュニケーション)はNTT系の広域イーサネット,電力系の広域イーサネット,イー・モバイルのワイヤレス・ブロードバンドを組み合わせ,設計から試験,移行まで半年あまりで完了した。キャリアがサービスとして同様のことをするには何倍もの時間がかかるだろう。もしかしたら,時間がかかるという以前に,まったく性格の異なる三つのキャリアのサービスを一つにまとめることは不可能かもしれない。

 第三の問題はユーザーがキャリアにロックされることだ。ユーザーが選択・組み合わせの主体性を失い,他のキャリアが優れたサービスを始めても,それを取り込むのは容易ではない。