9月はじめの4日間,家族5人で沖縄へ旅行した。本州はゲリラ豪雨に見舞われる不安定な天気が続いていたが,沖縄はずっと高気圧圏内で好天だった。このコラムにも何度か書いたが,夏の強い日差しを受けた海の深い青色は大好きだ。ホテルのベランダから,その色を眺めているだけで気分が良かった。

写真1●沖縄ではトンボ玉作りにトライ
写真1●沖縄ではトンボ玉作りにトライ

 7月末の研究会旅行では備前焼をしたのだが(前回の記事を参照),沖縄ではガラス細工にトライした。沖縄はガラス製品づくりが盛んなところで,工房がたくさんある。国道58号線沿いにある「てぃだ工房」で,トンボ玉作りを教えてもらった(写真1)。5人の中で筆者が一番スジが悪いらしい。息子たちに言わせると先生の言うことをぜんぜん聞いてないという。しかし,人の言うことを聞かないことにもメリットはある。

 さて,今回はデータセンターの入札に敗れて発見した企業ネットワークの第三の目的と,それに関連する話題について述べたい。

10年前の資源配置,現在の資源配置

 2,3カ月前にデータセンターのコンペがあった。知恵を絞って提案書を作るというのではなく,単純に基幹系業務のサーバーをハウジングするために必要なラック本数や所要電力などの仕様が示され,1枚の見積書を提出しただけだ。プレゼンなど,当然ながらない。ユーザーが業者を選定する基準はほぼ100%価格だけだ。

 かなり頑張って安い見積もりをしたのだが,負けてしまった。筆者は今回のような単純入札で負けても,分厚い提案書をプレゼンして負けた場合でも,その敗因をお客様に聞くことにしている。今回は落札した業者の見積もりが,こちらの半額以下だったそうだ。これでは勝てるわけがない。

 「いったいどこにあるデータセンターですか?」と聞いて,その答えにビックリした。米国だというのだ。この企業は国内で事業をしており,拠点は国内にしかないのだ。サーバーの仮想化でもして安くしているのですかと質問すると,普通に自社専用のサーバーをハウジングするだけだという。驚くと同時に,「へー,面白いじゃないか。うちも海外のデータセンターを提案できるようにしよう」と思った。

 米国と日本の間のネットワークを安く使えるようになったから出来ることだ。データセンターの費用の中身は東京都心なら,土地・建物のウェイトが高い。電気料も高い。米国なら土地はタダのように安く手に入る。建物も高層化する必要がないから安くでき,減価償却費を抑えられる。この件があって調べて知ったのだが,日本の産業用電気料は米国より2倍近く高いのだ(図1)。これでは都心のデータセンターが米国のそれに価格で負けるのは当然だ。

図1●各国の電気料金比較(2006年)
図1●各国の電気料金比較(2006年)
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 「ネットワークという資源が豊富(広い帯域幅=超高速)で安価になった結果,それをふんだんに使って相対的に高価になった土地,電気,人材などを海外から調達できるようになったのだ」と気づいた。

 実はこれに近いことを98年に提案し,受注したことがある。拙著「間違いだらけのネットワーク作り」(2008年4月,日経BP社刊)の最初のページに書いてある事例だ。全国の都道府県所在地にコンピュータ・ルームを持って分散処理していたお客様に,ネットワークを従来の8倍に高速化し,サーバーをデータセンターに集中させる提案をしたのだ。ネットワークを8倍の速さにしても回線費用は2倍にしか増えなかった。対して,コンピュータ・ルームは47カ所不要になり,サーバーの台数は3分の1に減った。相対的に安くなったネットワーク資源をたくさん使って,コンピュータ資源やコンピュータ・ルーム,オペレーターなどの費用を大幅に削減したのだ。

 10年たって今回の経験をし,「国内でしか事業をしていない企業のネットワークも,これからは世界地図の上でデータセンターの配置を考えなきゃいけないんだ」と思い,面白いことになったと胸がときめいた。