前回は,チームリーダーになった筆者の仕事を,上司である課長が“禁止”した状況を説明した。リーダーになって権限を持った筆者は,いままで通り,個別システム設計やテストなどの仕事を実施しようとしたが,課長に呼ばれ「今後は,リーダーとしての仕事以外は禁止」と厳しく言われることとなってしまった。

 「部下に仕事をさせない課長が世に中にいるのか」

 当時,筆者はそう思った。それでも,課長は何も指示しなかったので,本当に仕事が何もなくなってしまった。困った筆者は,「課長に言われたこと」を考えて毎日を過ごすようになった。

分からない「リーダーの仕事」

 筆者は次第に,組織内の居心地が悪く感じるようになっていった。課長は「自分の仕事をやれ。それ以外の仕事は認めない」という。

 課長がいう「自分の仕事」とは,リーダーとしての,管理者としての仕事だと思うのだが,うちのチームにはAさんがいる。Aさんと部下が遂行する業務に関し,報告を受け,彼らの判断を承認し,週次と月次の業務報告書を課長に提出するだけである。後は予算策定だが,それについては年度末まで特にやることはない。

 担当者レベルの業務を禁じられ,筆者は本当に何もすることがなくなった。次第に人と話す機会もあまりなくなった。仕事がないとこんなにも会話が減るものかと思ったものだ。

 それから3カ月くらいが経過した。

 筆者から課長には話しにいかない。課長も筆者と話そうとはしない。アドバイスをくれるわけでもない。指示するわけでもない。筆者は課長と話すのが嫌であったから,丁度よいと思っていた。なにしろ,チームリーダーになって以来,報告できるような仕事はしていないからだ。アウトプットができていないのである。

 毎日会社に来て,一日中「自分の仕事とは何か」を考えるだけである。考えてみれば,これまでこんなにも考えたことはない。リーダーとは何か,管理とは何か,Aさんと自分の違いは何か,Aさんがしていない仕事で筆者が行うべきものは何か,組織とは何か,企画とは何か,予算とは何か。

 考える癖は付いた。集中できるようにもなった。本もたくさん読んだ。3カ月で200冊くらい読んだと思う。それまで本はほとんど読まなかったから,筆者としては驚くべき数の本を読んだことになる。知識は確実に広がった。

 しかし,それはあくまでも知識にしか過ぎない。具体的にどうすべきかは分からない。筆者にはどうしても答えが見つからなかったのである。

ユーザーからの相談で

 チームリーダーになってから5カ月後,ユーザーからある相談を受けた。有価証券事務システムが使いにくいので再構築できないかという相談だった。このシステムは8年前に作成されたシステムであったが,新しい金融商品が頻繁に出るので機能が足りないという。

 システム再構築には莫大なコストがかかる。筆者は有価証券事務システムの責任者だったが,こんなことまでは決められない。そこで,課長にこの話を引き受けてもらうようにお願いすることにした。

芦屋: ユーザーからシステム再構築の要望を聞いたのですが,これはなんていうか…,大き過ぎて判断できません。課長の方で検討願います。
課長: 駄目だ。俺には判断できないよ。それは,業務とシステムを理解している君にしか判断できないんじゃないの? 君が必要と思うなら再構築すればいいし,必要ないならやらなければいい。君が考えて判断すればいい…,それが君の仕事だと思っているのだけど違うかな? ただ,自分で決めたことには責任を持てよ。