先日,「少し考えさせられる出来事」があった。

 筆者が課長として責任をもつエリアの業務システムが,トラブルを起こしたのだ。トラブルの内容自体は非常に単純なもので,本来の修正箇所でないところを間違って変更する…,いわゆる「後退」で,回帰検証が不十分というのがその原因だ。

 筆者は早速,担当グループのリーダーである佐藤(仮名)を呼んで,今後どうするのかを確認した。佐藤は入社5年目でチームリーダーであるが,筆者は最近転勤してきたばかりなので,彼とはあまり面識がない。一人ひとりを面接していこうとしていた矢先に起きたシステムトラブルだった。

芦屋: 佐藤,どう対処する。君の考え方を教えてほしい。
佐藤: 修正は終わっています。今後は,回帰検証を確実にするようにします。
芦屋: 言うだけでは徹底はできない。それでは,同じことを繰り返す。もっと広い視野で考えなくてはいけないのではないのか?
佐藤: 課長,ですから,レビューの徹底や,チェックリストでしっかりやります。
芦屋: それでは駄目だ。君は視点が低い。リーダー人材なら回帰検証の統制の仕組みを検討すべきだろう…,他のシステムでも同じようなことが発生しないかを調べないのか? リーダーは自分のチームだけが問題なければいいわけではない。君はリーダーなのだから,そういう視点を持たなければいけない。

 このように言うと佐藤は困惑した様子で筆者の顔を見つめ,次第に不機嫌な表情になった。彼の心を察した筆者は「まだ難しいか」と思い,次のように言った。 

 すまない。君は頑張ってくれている。君たちには二度と同じようなミスを起こしてほしくない。トラブルで苦しませたくない。その観点で,僕なりの再発防止のアイデアがある。それを一緒にやってくれないか?

 佐藤には悪いことをしたと思う。佐藤に「リーダー」としての仕事を期待するなら,彼に「リーダーの役割」を教えなければならない。それがなければ佐藤と筆者の「リーダーの定義」は一致しない。一致しない限り佐藤を責めても意味がない。佐藤にリーダーとしての行動を求めるなら,佐藤をリーダーとして育てなくてはならない。でも,人を「本当のリーダー」として育てるのは難しい…。

 上司は部下をどのようにしてリーダーに育てるのか。これに関して,筆者が忘れることができない「ある課長」の話をしたい。

 この課長の話は,6年前に書いた拙書「SE診断クリニック」で初めて紹介した。筆者が非常に大切にしている話であり,ここで改めて紹介したい。