前回は,録画予約/動画共有サービスにおける著作権の間接侵害裁判で主要な争点として取り上げられる「侵害行為の主体」を検討しました。具体的には,侵害行為の主体を判断するための「カラオケ法理」が,実際の裁判においてどのように適用されているかを見てみました。

 今回はさらに,著作権の間接侵害の問題から派生することがある「プロバイダ責任制限法」や「自動複製機器」といった付随的な争点を検討してみます。

侵害行為の主体にはプロバイダ責任制限法の免責規定は適用されない

 カラオケ法理によって,IT企業が侵害行為の主体であると判断されたとします。この場合,プロバイダ責任制限法の免責規定によってIT企業の損害賠償義務が免責されるか否かが次の争点となり得ます。

 プロバイダ責任制限法とは,「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律」の通称です。この法律の第3条は,一定の場合にはプロバイダ(IT企業)の損害賠償義務が免責されることを明らかにしています。

第3条
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは,当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は,これによって生じた損害については,権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって,次の各号のいずれかに該当するときでなければ,賠償の責めに任じない。ただし,当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は,この限りでない。
一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二 当該関係役務提供者が,当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

 過去の裁判例を見ると,この法律の第3条1項「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合」に該当しないことなどを理由に,「損害賠償義務は免責される」という主張がなされたことがあります(ファイルローグ事件)。

 しかし,第3条1項のただし書きは,「当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は,この限りでない」と規定しています。このため,前記の裁判では,カラオケ法理によってIT企業を侵害行為の主体とする評価を前提に,IT企業業を「発信者」に該当すると判断し,損害賠償義務についても免責しませんでした。つまり,裁判において侵害行為の主体がIT企業であると判断された場合,プロバイダ責任制限法による免責は受けられないと考えてよいでしょう。

「自動複製機器」による複製は私的使用であっても違法となる

 次に,著作権法第30条1項1号の「自動複製機器」の該当性について検討します。こちらは,カラオケ法理によって,侵害行為の主体がIT企業ではなく個々のユーザーであると判断された場合に問題となります。自動複製機器については著作権法第30条で以下のように規定されています。

第三十条 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は,個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは,次に掲げる場合を除き,その使用する者が複製することができる。

一 公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し,これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

 つまり,不特定多数の利用を前提に設置された,自動的に複製する機能を持つ機器が自動複製機器となります。

 ユーザーが著作物を複製する行為の主体と判断された場合,私的使用のための著作物の複製であれば原則として適法です。しかし「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」を用いた場合は,その例外とされてしまい,違法となります。

 IT企業の立場から見ると,自動複製機器をユーザーに提供していると判断されると,IT企業はユーザーの不法行為の幇助者と見なされてしまう可能性があります。そこで,ユーザーが複製行為において「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」を利用しているかどうかが問題となってくるのです。

 過去に「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」の該当性を肯定した裁判例として,選撮見録事件(大阪地方裁判所平成17年10月24日判決)があります。

 この事件で問題となったサービスは,集合住宅(共用部分)に設置された入居者向けハードディスクビデオレコーダーシステムの提供サービスです。当該集合住宅の入居者が,このシステムで録画予約されたTV番組を再生して鑑賞できるというものです。

 この集合住宅では10世帯以上の入居者がサービスを利用していました。裁判では,これらの入居者を「公衆」であると判断し,その上で,ハードディスクビデオレコーダーシステムを「複製の機能が自動化されている機器である」として,「公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器」に該当するとしました。そして,システムの設置者である管理組合ないし管理組合法人は複製行為や送信可能化行為の主体,システムを設置したIT企業はその幇助者に位置付けられました。

 また,システムを提供したIT企業が幇助者であると評価された場合,著作権法第112条の「侵害する者又は侵害するおそれのある者」に該当するとして差止の対象となるかどうかも問題になります。前述した選撮見録事件(大阪地方裁判所平成17年10月24日判決)では,著作権法第112条の類推適用(侵害するおそれがある者)という方法で,IT企業を差止対象としました。

 このような幇助者までを差止の対象とすべきかどうか,確立された考え方はまだ存在しません。しかし,選撮見録事件の考え方が立法化されれば,録画予約サービスを提供することには慎重にならざるを得ないでしょう。

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 前回から2回にわたって,間接侵害において過去の裁判で問題となった争点を概観してきました。サービスを提供するIT企業にとっては,自らが直接複製行為や送信可能化行為の主体と評価されない場合でも,幇助者として差止などの対象となり得ると考えると,適法に提供できるサービスの範囲がかなり狭まってくるわけです。

 次回は,このような状況下において,どのような方法ならサービスを提供できるのかを検討してみます。