「ミドルウエア製品は裸では売れないので、SI(システム・インテグレーション)やソリューションに潜り込ませる」。富士通のソフトウェア事業本部長である山中明経営執行役は2008年6月16日、ミドルウエア製品のグローバル販売戦略についてこう話した。

 同社のミドルウエア事業の規模は1000億円程度であり、「仮想化」「運用管理」「情報の統合・活用」「ビジネス・プロセス管理」の4分野を揃えている。だが、その中に大きなシェアを持つ製品はほとんどない。その理由はミドルウエア事業の位置付けにある。

 山中氏の言葉を借りれば「サービス事業やソリューション事業を展開する上で、強いミドルウエアが要る」という考え方である。つまり、ミドルウエアはSIなどシステム構築の付帯製品であり、中核事業はあくまでもサービスとソリューションということだ。

 ミドルウエア製品の開発では「とにかく顧客の要求を吸い上げる」というスタンスを通してきた。「当社の大きな強みは、大部隊の営業やSEがおり、彼らが顧客との接点になっていること。これらの現場と連携することで、顧客の要求を製品に反映させられる」(山中氏)。だがその結果は、どこを優先して強化するのかはっきりせず、ユーザーの要望があれば何でも追加しているように見える。先週の針路ITで触れたサーバー事業とも共通した点である。

 顧客ニーズをつかむことは必要だが、それだけでは製品の改善や改良に終始し、競合ベンダーを一歩も二歩もリードする革新的な製品は生まれない。そこで出てくるのが、欧米ソフト・ベンダーとのアライアンスである。「富士通のリソースだけで、すべての品揃えができるとは考えていない」(山中氏)。

 だがアライアンスの対象となる製品の多くは、データベースやWebアプリケーション・サーバーなどミドルウエアの中核製品であり、富士通自身も手掛けている領域だ。富士通が提案するIT基盤「TRIOLE(トリオーレ)」を構成するミドルウエア製品の実に8割が、アライアンス先の開発製品と言われている。

 ミドルウエア市場で先行する米IBMや米HP、米オラクルなどのように、中核製品を補う形で企業買収を仕掛ける作戦かと言うとそうでもない。「ミッションクリティカルのシステムをきちんと作るために、自分達のミドルウエアを揃えていくというマインドが、富士通には強くある」(山中氏)からだ。

 欧米製品にTRIOLEの大部分を抑えられたことで、この自前主義の矛先はニッチな部分に向かっている。そこに日本のソフト・ベンダーの優れた製品があっても、アライアンスを持ちかける気にはなれないようだ。結局、開発投資は分散し、せいぜい年間売上が数億~数十億円の製品しか育たない。しかもその多くは、富士通のソリューションやサービスの中に埋め込まれているので、知名度は上がらない。

 こんな状況でグローバル戦略をうたうのはなぜなのか。一つには国内市場が伸び悩んでいることがある。さらには、山中氏が強調する「グローバルに挑戦しなければ、国内市場でも弱くなる」との危機意識である。「確かに今の富士通製品はグローバル市場では無名で、売り上げも小さい。だが、サービス事業のコストダウンを図り、さらに付加価値を高めるために、グローバル展開は欠かせない」(同)という。

 しかしそのためにはやはり、ミドルウエア製品単独で勝負する気概が必要なのではないか。本業はあくまでもサービスやソリューション、と言い続けるうちは、ミドルウエアを開発する技術者らのモティベーションは上がらない。競合ミドルウエア・ベンダーを分析し、富士通が強い部分にリソースを集中させ、弱い部分は国内のソフト・ベンチャーらとの協業も考える。その結果日本のミドルウエア・ベンダーの強さが見えてくれば、取るべきグローバル戦略の方向もはっきりしてくるだろう。