「守る製品と攻める製品があるので、メリハリをつけて投資していく」。4月、富士通のサーバー事業戦略について、富田達夫経営執行役常務はこう語った。競合のIBMやHPに比べると「富士通は品揃えが多過ぎて、投資が絞り込めていない」という指摘への答えでもある。

 富士通のサーバー事業は2006年度、赤字に転落したらしい。当時のサーバー部隊は「ムードが暗く、営業と開発のコミュニケーションもうまく行っていなかった。戦略を周知しようにも、情報がうまく伝わらなかった」(富田氏)。黒川博昭社長(2008年6月末退任予定)は、2006年度の期中に担当役員を交代させ、早期回復を指示した。つまり富田氏の登場である。

 サーバー事業の問題は、売る側の思いと開発する側の思いが一体となっていなかったことだ。営業は、どの製品を売ればいいのか分からない状況だった。例えば「UNIXサーバーを売って、それで果たして儲かるのか」という迷いがあったという。

 富田氏によれば、「営業現場はPCサーバー『PRIMEQUEST』一色であり、サン・マイクロシステムズと共同開発したUNIXサーバーの『SPARC Enterprise』を売ってはいけない、という雰囲気すらあった」という。この“雰囲気”をしのばせる事実がある。富士通が独自開発したUNIXサーバー「PRIMEPOWER」は、2008年3月末の生産中止が決まっていた。にも関わらず、2007年度には計画を大きく超える売り上げを達成。お陰でSPARC Enterpriseへの切り替えが遅れたという。

 サーバー事業立て直しの最初の目標は、日本IBMに奪われた国内No.1のシェア奪回であった。「どのサーバーを売ってもよいのだ」と営業に理解してもらうため、「富士通はメインフレームGS、SPARC Enterprise、PRIMEQUEST、PRIMERGYの4種類のサーバーを売り続ける」と社内で喧伝した。その上で「メインフレームを無理にオープン系にマイグレーションする必要はないし、どれを売ったら儲かるか、損するかということではなく、ユーザーが一番欲しい製品を提供する、という基本に立ち返ることにした」(同)という。

成功の鍵はグローバルにあり

 営業担当の間塚道義副社長(6月末に代表取締役会長に就任予定)が「シェア奪還」を言い続けたことも手伝って、サーバー事業は2007年度に国内No.1のシェアを奪回。「損益も良くなった」(富田氏)。ただし、2007年度の売り上げは約1900億円。ストレージやミドルウエアの売り上げを加えても、前年度から微増の3700億円程度である。これで2008年度に成長への道筋をつけられるのだろうか。

 富田氏は、具体的な時期こそ明かさなかったが、「(グローバルでの)今のシェア5%を、10%にもっていきたい」とする。最も期待しているのが、SPARC Enterpriseだろう。2007年度下期からようやく国内で売れ出した。PRIMEQUESTはオープン系を要求する自治体向けなどを中心に拡販し、PRIMERGYではブレード型製品の売上げを倍増させる考え。だが、主力のメインフレームによる売り上げは、2007年度20%減だったのに引き続き、2008年度もマイナスになりそうだ。オープン系製品はその落ち込みを十分にカバーできるのか。

 ここでクリアすべき課題の一つはグローバル展開である。これまで「利益の源泉は国内」と位置付け、ソリューションを含めた周辺事業でしっかり利益を確保し、その余力をグローバル展開に向けてきたのが富士通である。それが本格的にグローバル事業に取り組むには、「IBMやHPと戦うマインドがいる」(富田氏)。価格競争に打ち勝つための物流体制や販売体制を再構築する必要もある。

 しかし、SPARC Enterpriseをどう売り込むのか。「安価なSun互換品」を売り文句にしてきたPRIMEPOWERがなくなったことで、海外拠点の競争力は低下するだろう。そこで、欧州やアジアでの生産、日米でのBTO(注文生産)などに着手するなど、生産体制を見直す。静岡県の沼津工場に部品を集め、組み立て検証し出荷する仕組みも立ち上げる。

 富田氏は「グローバルで一番売りやすいのはPRIMERGYだ」と言う。だが、富士通の海外拠点の営業力は未成熟だ。コモディティ製品であるPCサーバーでは、製品力より販売網を含めた営業力がものを言うが、富士通の販売体制は国によって違う。例えば、英国の富士通サービスはHP製品も扱っている。「HPがサービスに力を入れてきており、HP製品を売ると、サービス売上げもHPに持って行かれてしまう可能性がある。富士通サービスのトップも、富士通製品を売らないとまずいと思い始めた」(同)。逆に言えば、「富士通製品を売る気になるような商材」を開発する必要があるということだ。

 日本より欧州で売れているPRIMERGYは、ドイツのシーメンスとの合弁会社である富士通シーメンスが開発を担当している。ブレード・サーバーの売り上げ倍増を目指しているというが、日本市場でのブレード・サーバー販売は出遅れ気味であり、売り上げは30億円程度しかない。海外でのシェアも小さいためか、現状では日本国内市場に特化して売りやすい仕組みを考えるにとどまっている。

 言ってみれば富士通のサーバー事業には(サービス事業もそうだが)、グローバルで統一した戦略がない。製品には富田氏が責任を持つが、営業の責任は別だ。しかも、社長直轄の海外事業において、売る側をきちんと見ている責任者がいない。海外でも国内同様、製販一体の体制を築き、何を売るのか明確に示さないと、IBMやHP、デルに引き離される一方だろう。収益源のサービス事業拡大という目標も遠のく。

 6月末に取締役副社長に就く富田氏は責任重大だ。サーバー事業全体をグローバルにまとめあげ、メリハリをつけた開発・販売体制を作り上げられるかどうかに注目したい。