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 前回の『四川大地震から垣間見えたこと』に続いて,中国におけるアウトソーシングの最新事情を紹介したいと思います。前回述べたように,「中国は多様な国である」,そして「中国は変化しているが,変化と不変化の両方を見抜く」という点を意識しながら読んでみてください。ビルや道路といった都市の外観の変化だけでなく,そこで働く人々への理解が欠かせません。

 まずはソフトウエア開発に限らず,日系企業の中国進出全般について見てみましょう。これまで日系企業は,地理的距離,心理的距離,事業メリット,仕事のしやすさなどの面から,中国の沿岸地域を中心にビジネスを進めてきました。主な進出先は,(1)北京,遼寧省などの華北・東北,(2)上海,山東省などの華東,(3)広東省など華南です。そして,西部地区(内陸部)へ拡大してきました。

 日本とかかわりを持った沿岸地域の人々は,日本の文化や習慣,そして日本人を知っており,それがビジネスをうまく進めることにつながっています。例えば,効率的な仕事の進め方,時間を守る習慣,ビジネス・ルールに基づいた進め方などです。日系企業とのかかわりがなかった地域では,それを習得するまでに一定の時間と経験が必要となるでしょう。

 ソフトウエア開発のアウトソーシングでも同様の傾向が見られます。現在は華東,華北,東北地方の沿岸地域を中心に拡大しています。2006年に,ソフトウエア全体の販売収入が1300億円を超えた省・直轄市は,華北の北京市,東北の遼寧省(省都は瀋陽),華東の上海市,浙江省(杭州),江蘇省(南京),山東省(済南),華南の広東省(広州),西部の陜西省(西安)の8地域です。陜西省を除けば,いずれも沿岸地域です。これらで全体の83%を占めています。

 2007年における中国のソフトウエア関連輸出契約総額は約2000億円と,5年間で数倍に成長しています。中国では国家や市政府の強力な支援のもと,特定の都市を国家ソフトウエア輸出基地と定め,ソフトウエア・アウトソーシング産業の振興を進めています。今後もダイナミックに変化を遂げることでしょう。日本企業としては,初期の発展段階だけでなく,その後の変化もにらんだ展開を進める必要があります。


インフラや人材確保に課題あり

 中国のソフトウエア産業は歴史が短いため,製造業に比べてその基盤はまだ弱い状況にあります。ハイテク区のようなハード面のインフラは進んでいますが,ソフトウエア人材の整備はこれからの課題です。ソフトウエアは無形でコピーされやすいため,知的所有権・著作権および輸出に関する法律への対応が求められます。また,従来の工業製品と異なり,設計のような知的労働を行う人材の能力・スキルとそれらの管理が重要になります。

 ソフトウエア産業の就業者は,(1)プロジェクト管理者,(2)設計者,(3)プログラマに大別されます。中国ではソフトウエア人材の平均年齢が30歳弱と若いです。そしてIT産業がこれから成長する産業と認識されており,かつ高給であることから,理工系学生のトップレベルが就職しています。プログラマは比較的短期間に養成できますが,プロジェクト管理者や設計者の育成には時間がかかります。産業発展の速度に,ソフトウエア人材の質と量が追いついていくのが目下の課題です。

 このような状況下で,日本にある中国企業で働いている中国の技術者は必ずしも一枚岩となり効率的に対応できる体制になってはいないようです。その要因として,中国人技術者の上昇志向,高給志向,個人主義,ロイヤルティ不足,国内市場の不安などがあります。また,オフショア・アウトソーシング事業が短期指向であり,事業に携わる人間の出身地域,個人的背景,言語,習慣が異なっていることも影響していると思います。基本的に単一の文化・言語に基づく日本の物差しで測ることは難しいと思われます。