「ITソリューションからビジネスソリューションに切り替えないと、富士通は生きていけない」。富士通の黒川博昭社長は9月19日、記者に構造改革の必要性と狙いを語った。事業の選択と集中を推し進める一方、フィールドイノベータと呼ぶ新たな人材の育成などにより、3年間で改革を実現させるという。

 黒川氏が社長に就任したのは03年6月である。翌年の経営方針説明会で営業利益3000億円構想をぶち上げたものの、その1年目である04年度の業績が伸び悩み、目標達成が困難になった。問題は企業体質にあるとし、黒川社長はその改善に取り組みながら、新たな目標を掲げた。それがビジネスソリューションへの転身である。(参考:富士通・黒川社長の強い決意

黒川社長 企業体質を改善したのは、(社員が)自信を喪失していたからだ。00年以前の富士通は自分達がやれば世の中を引っ張れるし、市場も拓かれると思って技術開発・投資をしてきた。ところが、バブル崩壊でその考えがぺしゃんこになった。外を見ないで、内向きになったことにも起因する。その典型が人事制度として目標を数値化し、評価するという目標管理だった。そこで、個人の目標を外し、組織やチームとしての目標にした。また、自分たちが正しいと思って、「自分たち何でもやろう」という考えを改め、外に優れたものがあったら採り入れるよう改善も図った。

残されたのは、世の中と比較しながら、一歩先を見られる構造に変えていくこと。そこで、他社とのベンチマークをしたところ、富士通は様々なところで遅れていることが分かった。

黒川社長 00年以前の富士通は常に先を走ってきた。周りがどうのこうのより、前を見て進んだ。しかし、世の中を見たらいろんなところで負けていた。辛うじて勝っているものもあったが、昨年よりこれだけ良くなったということがない。「中身がいい」と言っても意味がなく、問題は周りと比べてどうなのかになった。

その典型がなんでもかんでも手掛けてしまうことだった。

黒川社長 取捨選択をせずに、ビジネスとして成立しているかを考えないで、富士通はすべてをやりたがる。07年5月にSE部門が扱うパッケージを調べたところ、製品登録したパッケージのうち1個も売れてないものが実に75%もあった。数はたくさんあるということは、それにお金も使ったことになる。事業になっているのかをきちんと考え直す必要があるので、4年前にキャッシュフローを導入し、ビジネスとして成り立っているかを見るようにもした。1個も売れないパッケージの50%の登録を止めた。特にプロダクトはグローバルでの戦いになるので、そうしたことをしないと同じことを繰り返すことになってしまう。

富士通はプロフェッショナルで勝負

その一環として「ビジネスソリューションを提供する」ITベンダーに切り替える。

黒川社長 これまでの「作る」ことから、ユーザー企業のビジネスが成功するようなサービスの提供に変える。富士通の付加価値を高めるためでもあるが、経営や業務の目線からユーザーのビジネスを変えるにはどうしたらよいのか、を提案する力を持つ必要がある。BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)がその1つで、品質やデザイン、デジタルエンジニアリングなど社内のノウハウを生かした事業を展開するため100%子会社を作った。いくら内部に「やれ」と言っても本気にならないので、そこにリーダーと人材を移し、他社よりいいサービスを提供しているといった競争力で評価することにした。そして、サービスを受けるユーザーの目線で組み立て直しながら、3年間でユーザー企業に売れるサービス会社に仕立てる。新しいジャンルを切り開くために、07年10月から始めたフィールドイノベータの育成もそうだ。幹部社員に先頭に立ってやってもらうので、営業やSEはそれに充てない。

リソースである人を最大限に生かす工夫が要るということだろう。同時に標準化を推し進めることが欠かせないとする。

黒川社長 (標準化は)ユーザーの100%にフィットさせられるとは思っていない。同じものは、6割、7割のユーザーしか使えないかもしれないが、効率化を追求することは重要だ。ITインフラ構築については、富士通エフサスに関連する技術者を含めて集約し、属人的な対応を排除するために“工業化”していく。これまで地域のSE会社は、ITインフラまでサポートしていたが、エフサスが共通技術を作ることで、人手に頼った部分を減らせるなどSEの仕事を変えられる。1人のSEがやれる仕事量は決まっているし、1人が儲けられる金額も決まっている。だからこそ、標準化が必要になるので、サービスの工業化、自動化を推し進めるのだ。ITインフラを徹底して標準化し、サーバーファーム化するわけだ。もちろん属人的でいいところもあるので、ここでは均一なサービスより、ユーザーに最適なサービスを提供する。

半面、基幹系アプリケーション開発に特化したソフト会社をはじめとする子会社の設立は機能分社化のようにみえる。

黒川社長 自分達で事業を考え、継続させるにはキャッシュフローが重要になる。そこで、そういう場(子会社)を作り、まとまった単位で人と技術を移したわけだ。自分達の事業をどうしようとしているかで、「ナンバーワンの技術だからやる」「シェアが取れるからやる」といって、何でも手掛けるのでなく、事業を継続的に成長させる考えに切り替えるということだ。

 確かに本体の数字が減るかもしれないし、本体の5万人弱を維持できなくなるかもしれないが、それで富士通が強くなればいいと思っている。そのためには富士通が持っている人材や能力を生かすプロフェッショナルな組織にすることだ。富士通が目指すのは、プロフェッショナルで勝負することなのだから、組織をどんどん作り、そこに優秀な人材を持たせ、各社がプロフェッショナルとしてユーザーに向いたサービスを提供する。こうした改革を3年間で実現させる。