先日,時事通信社の関連団体,社団法人内外情勢調査会のお招きで愛知県知多郡を訪ね,ブログ活用についてお話をさせていただく好機がありました。講演会には,地元有力企業の経営者,商工団体の役員とご一緒に,町長お二人もご参加くださいました。

 そのお一人,武豊町長の籾山芳輝さんと名刺を交換して驚きました。町長の名刺に,武豊町公式サイトと並んで町長ブログのURLが明記されていたからです。

 ランチをご一緒しながら歓談いたしますと,籾山町長がブログに対して高い意識と見識をお持ちであることが伝わってまいります。この講演会には,町長自ら積極的にご参加くださったと,後で事務局スタッフから伺いました。

 さっそく帰宅後,Gooで更新されている町長ブログ「籾山芳輝の日記」を拝読したのですが,その量と質に感嘆しました。そこで,籾山町長のブログを参考にしながら,市区町村の首長がブログで情報発信する際に「1.期待される効果」「2.不安の解消」「3.組織展開と連携の可能性」について,3回に分けて考えます。

首長ブログ7つの「期待される効果」

 現在,首長の要職を勤められている方,今後,首長になって社会を変えたい方は,籾山町長のブログをお読みになることをお勧めします。地元市民はもちろん,域外の第三者の気持ちになって読み込めば,籾山町長に好感こそ抱いても,反感をおぼえる人は少ないでしょう。

 もちろん私も好感を抱いた一人です。なぜ町長ブログに好感を抱いたのか,その気持ちを見つめながら,首長ブログを書くことで期待できる「7つのパワーアップ効果」をまとめてみました。

1)首長の忙しい日常が「見える化」する

 おそらく多くの市民にとって,首長は「会ったことの無い人」か,地元団体の式典,お偉い人の冠婚葬祭などで「無難なスピーチをする人」ぐらいの認識しかないでしょう。一言で言えば,「身近な人」ではないのです。しかし,実際には,忙しく公務を果たしながら,地元のことを常に考えている首長も多いはずです。そこには大きな「認識のギャップ」があるわけです。

 ところが,籾山町長のブログを見れば,その公務のすべてではないにせよ,忙しく動き回る日常が見えてくるでしょう。しかも堅苦しいレポートではなく,町長個人の印象や感想も書かれているブログを読むことで印象が変わります。今よりはずっと親しみをおぼえ「身近な人」に感じられるでしょう。

 例えば,2007年5月26日のブログ「公民館まつりが行われる」を読めば,おそらくは町長ご自身でデジカメ撮影をした会場の写真や,そこで話したスピーチの一端を目にすることができます。町長と一緒に,その場にいるような雰囲気にもなるでしょう。

 また,後半は家業である農業の作業がさりげなく書かれているのも驚きました。中には,首長は行政に専念すべきという人もいるかもしれません。しかし,忙しい中,大地に根ざした農業を自らの手で続ける首長に,好感を抱く人もいるでしょう。

 いずれにせよ「選挙用に創られたイメージ」ではなく,「等身大のライフスタイル」が町長ブログで「見える化」することは,市民にとって悪いことではないはずです。

2)感謝の気持ちを伝える「公開お礼状」

 籾山町長のブログを読んでおりますと,くりかえし,感謝のことばが登場することに驚きます。世の中にはブログを,評論家的批評や批判のツールや,不平不満のはけ口に使っている方も少なくありません。そんな中で籾山町長のブログは読んで心地よく,「子供にも読ませても安心なブログ」になっています。

 ひょっとしたら,首長という仕事は「毎日誰かにお会いしてはお礼を繰り返す職業」と言い換えることができるかもしれません。首長たるもの「えらそうで誰にでも威張っている人」という一般的なイメージとは,大きなギャップがあります。

 しかし,毎日お礼をしている首長に,実際に会ってお礼の言葉を言われたり,直接お礼状をもらうことができる人は稀(まれ)でしょう。そこで,「公開お礼状」とも言える首長ブログの出番です。

 例えば,5月24日のブログ「町長談話室にて貴重なご提言を頂く」を読めば,籾山町長を訪ねた県議会議員と,緑の募金を届けてくれた地元の中学生とを,同じ心持ちでもてなし,感謝の言葉を伝えていることが分かるでしょう。おそらく,ここで登場する3人の中学生は,町長談話室ではもちろん,後日ブログに自分の姿を見た時にも大いに感激したことでしょう。

3)紹介されてうれしい「参加型メディア」

 地方行政というと,議会や役所内の会議で密かに行われているというイメージが強いはずです。そして「読んで楽しいとは言いがたい」新聞折込の「役所のお知らせ」と「公式Webサイト」で,その模様が「一方通行」で伝えられているのです。そんな情報不通に近い状況にあっても,首長ブログが活性化すれば,それ自身が「より身近な参加型メディア」になる可能性があります。

 例えば,緑の募金を届けた中学生がブログで紹介され嬉しくなって,自分のブログでも書きたくなる。そして町長のブログにコメントやトラックバックをする。そのコメントやブログに,また町長や関係者が返答をする。そんな直接的なブログ・コミュニケーションが,籾山町長のブログを舞台にして早晩始まることでしょう。なにしろ,町長は,コメントもトラックバックも自由にしているのですから。

4)首長自らが集客・販売する「トップセールス」

 かつて,一村一品運動で知られる大分県の平松守彦元県知事の講演をお聞きして感動したことがありました。東京出張のたびに,自ら「関サバ」「焼酎」といった地元の産品を料亭や居酒屋へ「トップセールス」して,現在の活況を得たというのです。

 しかし,ネット時代には,わざわざ東京出張をしなくともできることがあります。首長ブログで,地元のおいしいものや,楽しい行事を書き続ければ良いのです。

 例えば,武豊町は,みそやたまりの蔵が多く,名産だそうです。そこで,私がすぐ思い浮かんだのは,おいしい「焼きおにぎり」「焼餅」「味噌汁」「味噌うどん」などの食べ歩きができる蔵めぐりです。5月16日の町長日記にある「夢乃蔵」という集客施設も,どうやら満員のようです。そこを基地にして,例えば自分にぴったりの「焼きおにぎり用みそ/たまり」を探す一日旅ができれば楽しそうです。

 八戸の八食センターを中心にしたプロジェクトにならって,お取り寄せが共同で簡単にできる仕組みがあれば,この一日旅が生きるはずです。一度武豊町の蔵を訪ねた人が,ずっと「お取り寄せリピーター」になってくださるかもしれません。

5)首長の学びを見て「内外の知恵」が集まる

 籾山町長のブログを読むと,毎日,多くの人に会っては,意見を求めていることが分かります。言い方を変えると「それぞれの人がそれぞれの立場で,言いたい放題で意見をぶつけている」とも言えます。これは多くの首長にとって,ありがたいことでもありますが,大変なことでもあります。ただ声が大きい域内の市民の意見に耳を傾けるだけでは,単なるガス抜きや利害調整に終わってしまうでしょう。

 よく地域振興で大切なのは「ヨソモノ.ワカモノ.バカモノ」だと言われますが,ここでも首長のブログが大切な役割を果たすはずです。

 うれしいことに,私が講師を勤めた5月23日の町長ブログにさっそく,講演内容が紹介されていました。それは過分なお褒めの言葉があって恐縮するものでしたが,合わせてお伝えしたかったメッセージが列挙されていたのが印象的でした。そういえば,講演中は,最前列に座った町長がご自身でデジカメを撮影されながら真剣に聴いてくださったのです。

 こうして籾山町長のブログに紹介してもらった人は,私ならずとも町長個人と武豊町を応援したくなるでしょう。こうして講演や歓談の中では伝えきれなかった助言をコラムで書き足しているのも,その影響なのです。

6)首長ひとりで改革を「先導して巻き込む」

 別の機会に,ある首長から「改革者の孤独」について伺ったことがあります。自分自身が明確なヴィジョンと強靭な改革への意思を持っていても,旧来の縦割りの組織や,利害関係者とのしがらみで,なかなか前に進まないというのです。しかし,首長ブログをうまく活用すれば,改革を進めるのに役立つことも多いでしょう。

 自らのブログで,将来のヴィジョンと改革の必要性を,毎日少しずつ,繰り返し繰り返し書くのが第一歩です。続いて,参考となる他の自治体での先行事例や,知恵者からの助言や学びなども書いていきます。この段階では,町長ひとりプラス外部の知恵者という孤独を味わうかもしれません。

 しかし,ブログでの発信を続けていくうちに,きっと地元市民や,役所や議会の中でも理解し賛同してくださる同志が増えてくるはずです。そんな同志と積極的に会いつつブログで紹介して,理解者の輪を広げていくのです。そして,最後は,同志がそれぞれ自分の得意分野で改革を始め,自分のブログで「新しい地元の姿」を語り続けることになります。そして,お互いにコメントやトラックバックしていけば,大きな改革のうねりがブログコミで伝わっていくことでしょう。

7)懸命な日常を通じて「将来の選挙活動」

 こうして,首長が毎日の懸命な営みをブログで続けていけば,それは最も効果的な「次回に向けた選挙活動」にもつながるはずです。毎日,首長ブログを楽しみにしている読者は,あたかも「毎日,首長と会っているような気分」になるでしょう。ましてや,首長ブログで紹介してもらったり,コメントやトラックバックをし合った人は特別な感情を抱くはずです。

 選挙の時だけ笑顔を浮かべて公約を連呼しながら,当選後,在任期間中に公約を果たしたか不明確な首長もいないとも限りません。しかし,首長ブログを通じて,公約を1つずつ実践して形にしていることが伝われば,それこそ大きな信頼となるでしょう。また,首長が在職中こまめにブログを更新すれば,その市区町村の観光,産業からグルメにいたるまで,あらゆる関連キーワードで検索した時に「首長ブログ」が上位表示されることでしょう。即ち,地元のPRと,首長のPRが同時にできてしまうのです。

 いずれ,首長ブログが一般化すれば,選挙カーのいらない静かな選挙,選挙ポスターにブログのURLだけが書かれたお金のかからない選挙が実現するかもしれません。

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 このように,ざっと考えても7つのメリットが思い浮かぶ首長ブログに,挑戦している首長がまだまだ少ないのは残念です。

 事例が少ない中,武豊町の籾山町長ブログは,良いお手本になるでしょう。籾山町長のブログを熟読しながら,その成功要因は,町長の進取の精神と温和なお人柄が半分,あとは顔の見えやすい地方の中小サイズの自治体だということが半分だと感じました。これは,経営者ブログが,やはり新しいもの好き,IT好きの中小企業経営者から広まったことと似ています。

 自治体の規模を問わず,首長ブログには大きな効用があると,私は確信していますが,まだ普及には時間がかかるかもしれません。現に,その講演会には,他の町の町長もご同席されていましたが,その方は首長ブログには消極的でした。

 そこで次回は,首長ブログに関する「5大不安」を解消すべく,考察を深めたいと思います。