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SNSで外部ブレインと地域振興
「墨田ブランドアップ電子会議」

2007/02/07

 私が生まれ育った東京の下町「墨田区」に時代の風が吹き始めました。2011年の地上波デジタル放送移行に合わせて建設される新東京タワーが,墨田区の押上・業平地区に建設されることが決まったからです。さらに,葛飾北斎の生地近くに墨田区が有する膨大な北斎コレクションを展示する美術館が建設される計画もあります。これまでは,浅草・上野・日本橋・築地・銀座などの陰に隠れていた墨田区が,少しずつ国際観光都市として注目されていくのは間違いないでしょう。

 しかし「ただ観光バスが通り過ぎるだけの町にはしたくない」と,山崎昇墨田区長や新タワーの建設主体東武鉄道グループ関係者をはじめとする多くの地元関係者は考えているはずです。そこで,新たな知恵を生み出すために東京商工会議所墨田支部を中心にした区内の有志と,日経ベンチャー経営者倶楽部メンバーズサロンがタイアップして,「墨田ブランドアップ電子会議」というSNSが開設されました。これは「墨田区を盛り上げるアイディア」を外部のブレインから広く募集して,その妙案の数々を区内のキーマンに直接届ける新しい試みです。

 今回の企画の中心は,東京商工会議所墨田支部内に結成された「墨田ブランドアップ推進会議」です。墨田支部の高橋久雄会長東京東信用金庫会長)の呼びかけで,中井弘墨田支部副会長(オキナ会長)を座長に7人の役員が結集しました。支部横断的な少人数の専門委員会を作ることで,意思決定のスピードを早めることを目指したのです。

 光栄なことに,若輩の私も末席で熱い議論に参加させていただいております。既に同会議では,区内会員企業に「新東京タワーを含む同社敷地内開発」に関するアンケートを実施して取りまとめ,昨年の10月には新東京タワーの宮杉欣也社長に「提案書」をお渡しいたしました。

地域振興のカギは「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」

 高橋会長は,墨田支部のリーダーに就任するやいなや,地域おこしで成功している小布施,善光寺,金沢などの先行事例を自ら見て歩き,そのキーマンに教えを求めました。

 その視察研修を通じてまとめられたレポートを見て,私は大いに驚き,また感銘を受けました。地域活性化のカギは,内部にいる人よりも,むしろ「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」にあると明記されていたからです。

 一見すると差別用語に見えるかもしれません。しかし,この3つの呼び名は,敬意をこめた尊称なのです。

 ここでいう「ヨソモノ」とは,区外出身者や区外在住者でありながら墨田区が大好きで愛している人,さらには,墨田区に移り住んできた人を意味します。中にいると見えない「墨田区の良さ」を,「ヨソモノ」のみなさんの方が,広く深くご存知の場合が多いのです。

 例えば,わざわざ「江戸蕎麦」と名乗りたくて,埼玉の名店を閉じて,両国の江戸博物館近くの路地裏に店開きをした人気店「ほそ川」などが好事例でしょう。

 もちろん,「ヨソモノ」の中には外国の方も入ります。ひょっとしたら,最も耳を傾けるべきアドバイザーかもしれません。

 そして,「ワカモノ」は,文字通り若い人たちです。長老の知恵も重要ですが,地域おこしには柔軟な発想と並外れた行動力が必要です。さらに,わが下町のように「古き良き時代の面影」や「懐かしい暮らしぶり」が大切なソフト資産である場合,若い人の方が「強い憧れ」を持って古いソフトを残そうとするはずです。

 例えば,今や,路地裏迷路にありながら都内でも有数の人気カレー店になった「スパイスカフェ」は,おばあちゃんの古い木造アパートを若者が手作りでリフォームした懐かしさいっぱいの名店です。同様に,北斎通りの甘味どころ「北斎茶房」は,ワカモノが経営しているのに,奥にはちゃぶ台と座布団が並んでいるのです。

 最後に「バカモノ」ですが,自分の好きな地域と趣味を同じくする仲間のために,損得抜きで一肌脱いで,とことん力を発揮する人のことです。今回の墨田区プロジェクトでは,区内区外問わず,老若男女問わず,愛すべき「バカモノ」が多くて,嬉しくなります。

 例えば,向島の路地裏文化をこよなく愛する「向島学会」の人たちの楽しげな活動を見ておりますと,嬉しくなります。それを公私ともにひそかに応援する墨田区役所文化振興課長 中山誠さんも,素敵な「バカモノ」です。春のお花見,夏の隅田川花火,秋のお祭り,冬の第九コンサートまで,ほとんど休日も休まずに働いた結果,墨田文化の生き字引になろうとしています。

 もちろん,東商墨田支部のみならず,地元の団体で活躍しているリーダーの多くが,「ボランティアなのに,なぜここまで一所懸命はたらくか」と驚かされる素敵な「バカモノ」ぞろいなのです。

妙案は公式な審議会よりも個人的で無責任な雑談の中に

 とはいえ,区内のキーマンと,素晴らしき「ヨソもの・ワカもの・バカもの」が区役所の大会議室で顔をそろえても,あっと驚く妙案が出ることは少ないでしょう。

 先日,ソフト化経済センター時代からのわが師 日下公人先生が,東京財団の講演で「なるほど」と思う斬新な意見をおっしゃっていました。それは「よい政策提言を集めたいなら,シンクタンクや審議会を作るより,各自がホームパーティを開いて雑談をした方がいい」という半ば爆弾発言でした。

 要約すれば,「お金をかけ,どこかからお金をもらって色のついた政策研究をしても,斬新な提案は出てこない。むしろ心ある一人ひとりが,親しい人たちとホームパーティでも開いて気軽な雑談をすることが大切である。そんな中から良いアイディアが生まれたら教えてほしい。それらを集約して,安倍首相はじめキーマンに提言する」という内容です。

 たしかに,鉄面皮の私でさえ,先輩諸氏に囲まれた公式な会議では,自分のアイディアを発表する時,心臓が破裂しそうになります。もっと誰もが気軽に発言できる場があれば,きっと良い意見が出るでしょう。

 また,公益団体の会では,うかつに提言すると「それでは君に任せた」と責任者に任命されてしまうリスク(?)もあります。これでは自由闊達(かったつ)な発言も,発想が出る前に自粛モードになってしまいます。適度に客観的で無責任な立場の方が,良いアイディアは出そうです。ちょうど,連帯保証している自分の会社の経営は近視眼でよく見えなくとも,責任がない知人の会社の経営改革案はいくらでも思いつくようなものです。

 だからこそ「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」が気軽に集まって自由に意見を述べられ,それを区内のキーマンに確実に届けられるような仕組みが必要だと考えたのです。

日経ベンチャー経営者倶楽部のSNSを活用して「電子会議」

 そんな矢先,「経営者のためのIT道場」を連載している日経ベンチャー経営者倶楽部の木村明さんから,嬉しいご提案をいただきました。

 同倶楽部で経営者のためのソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を始めるので,東商墨田支部が「ネット商工会議所」のモデルケースになってほしいというご提案です。

 コストがかからないこともあり,まさに「渡りに船」のありがたい提案でしたので,すぐさま事務局と役員会に活用をお願いしました。そして,昨年末に「墨田ブランドアップ電子会議」を開設したのです。

 残念ながら,役員会メンバーにはパソコンやSNSになじんでいらっしゃる方が少ないので,いきなり「ネット商工会議所」とまではいきません。しかし,日経ベンチャーを愛読しているような経営者やコンサルタントなど情報感度の高い方々が「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」として,このSNSに参加してくださることを期待しています。

 具体的な運営方法としては,まず「墨田ブランドアップ推進会議」などで配布された内部資料で公開が可能なものをネットで提供していきます。つまり,SNS上の電子会議メンバーも,私たち推進会議委員とほとんど同じ資料で判断や企画ができるわけです。

 さらに今後は,「推進会議」で話題に上ったテーマについて問いかけをするケースが増えるでしょう。例えば,地域振興やエンターテインメント施設において「トイレ」が重要であることは今や常識だそうです。そこで,「あなたが見た理想のトイレを教えてください」とお尋ねして,ネットで写真付きの回答をいただくといった活用法が大変有効であると考えます。

 もちろん,話題のmixiなどで始めれば,すばやく多くの人を巻き込むことができるかもしれません。しかしながら,当初は内部資料の公開もありますので,経営者やコンサルタントを中心に,実名公開で信頼できる少数精鋭の方々にご参加いただくことから始めます。その点でも,信頼のおける日経ベンチャー経営者倶楽部のメンバーズサロンがまさに最適だったのです。

電子会議発の妙案をキーマンが見つめる

 この電子会議の最大の特長は,これから墨田区の地域振興,産業振興で活躍するキーマンが議論を注視しているということでしょう。商工会議所の役員はもちろん,墨田区役所や新東京タワー株式会社のキーマンにも,ひそかに見守っていただけるようお願いをしていきます。

 また,日々SNSに参加するのは難しいキーマンにも,みなさんの意見の集大成を,事務局と私が責任を持ってお届けします。まずは役員会で報告して,そこで吟味した選りすぐりのアイディアを,墨田区長や新東京タワーのトップにも提出できればと思います。

 まさに,日下先生がおっしゃった「ホームパーティの雑談を東京財団が集約して首相に届ける」のと同じ仕組みを,墨田区で実現したいのです。

「合意より強引」の精神で,妙案をリーダーが独断専行

 墨田支部 高橋会長が,地域振興の先行事例を視察してまとめた提言書の中には,「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」と並んで,もう一つ重要なキーワードが書かれています。それは「合意よりも強引」の精神です。まさに強力なリーダーシップで改革に取り組まねばならないのです。

 もちろん合意形成が必要ないと言っているわけではありません。しかし,目先のことや自分の利益しか考えていない人の意見を聞き始めるとキリがないと,地域振興を成功に導いたリーダーたちが教えてくれたそうです。

 ネットを活用して広く意見を集めると同時に,「この人の見識や美意識が確か」だと思える真のオピニオンリーダーの意見にしたがって,一本筋が通った英断を続けることが重要でしょう。

 例えば,このたび発表された新タワーの外観ひとつとっても分かる通り,地元の人を中心にすべての人が満足する合意形成をすることは不可能なのです。100年後も町並みにとけ込む美しさと耐久性を考えるなら,その時は生きていない素人があれこれ口をはさむのは得策ではありません。むしろ,内外に認められる美意識と経験を持ち,自らの名前と誇りを100年後も傷つけたくないプロフェッショナルに委ねた方が良いでしょう。

 今回はアンケートの集計結果をもとに,建築家の安藤忠雄さんと彫刻家の澄川喜一さんが監修して,タワーのデザインが決まりました。今は近未来的なデザインに見えますが,50年後はレトロに見えるような気もします。

 いずれにせよ,利害が渦巻く内部の関係者の意見だけを聞いていては,どうしても見識が偏りますし,リーダーの決断も鈍ります。「墨田ブランドアップ電子会議」に寄せられた意見が,リーダーたちの視野を広げると同時に,時には独断専行と思われる大英断をするリーダーの背中を,そっと押すような役割を担えればと考えています。
 

ネット活用でメンバー一人ひとりができることを独断専行

 そして,私が一番期待しているのは「電子会議」に集まったメンバーが,これを契機に一人ひとり,自分なりの「2011年プロジェクト」を始めることです。墨田区役所や東武鉄道グループが何をするかを期待するよりも,「自分ができること」から始める人こそ,真の「ヨソモノ・ワカモノ・バカモノ」ではないでしょうか?

 先日,たった1人の在日外国人がはじめた「ジャパンガイドドットコム」が,今や,英語圏で日本への旅行を考える人の必読サイトになっていることを知りました。ネット時代は,誰もが「ジャパンガイド」「墨田区ガイド」になれる時代でもあるのです。

 また,エルダー旅倶楽部の大社充さんに,墨田区役所の中山文化振興課長をご紹介しましたら,それがきっかけとなって全日空もまきこんだ新たな「江戸の風情漂う下町・向島ツアー」が実現したのです。

 こうして,心ある人と人が出会って,新しい試みが次から次に生まれる。それぞれの得意分野で独創的な地域活性活動が花開き,ネットワークを通じてリンクされ自己増殖していく。そんな「独創共栄社会」が「墨田ブランドアップ電子会議」の彼方に見えるような気がしてなりません。

墨田SNS参加ご希望の方は私にリクエストメールを

 今,日本が観光立国を目指すこの時期に,墨田区に大きなプロジェクトが集中し,同時にブログやSNSというツールを,個人やNPO(非営利組織)が手にしているのは興味深いことです。

 なぜか私が「墨田ブランドアップ推進会議」のメンバーに選ばれ,「墨田ブランドアップ電子会議」のご案内を,このコラムで差し上げているのも単なる偶然でしょうか?

 もし,この一文を読んで,この新しい地域振興SNSにご参加いただける方がいらっしゃったら,ぜひ私あてにメールをお送りください。「実名とプロフィールを公開できるビジネスパーソン」で,日経ベンチャー経営者倶楽部SNSのルールを守っていただける方ならば,私からご招待状を出させていただきます。

 素晴らしい意見の数々を「電子会議」に出していただいた方々を墨田区にお招きして,親交を温めたいと考えています。そして,今はまだ広大な空き地である「新タワー予定地」「北斎館予定地」などをご案内するのが今から楽しみです。平らな墨田区を徒歩や自転車でゆるりと回れば,きっとその味わい深さを体感していただけるはずです。そして,タワーが建ち,街が人が変わっていく様子を,ご一緒に目に焼き付けていただければ幸いです。

 ぜひ,ご一緒に「新三丁目の夕日」プロジェクトを進めましょう。

著者プロフィール

 10年前のネット黎明期に,WebサイトでTシャツの販売を始めて事業の柱に育て上げ,数々の賞をものした久米信行氏。企業規模を問わず,経営者や管理職を中心としたビジネス・パーソンの方々に向けて,昨今話題のブログを企業経営に活用する方法を,実際の事例を交えながら紹介する。

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