今も昔も営業とSEの関係は難しい。“第一線のSEと営業が両者の関係をいかに考えていかに上手く協業するか!”。この問題は多くのIT企業の重要課題である。それについてこれまで数回,SEとしての考え方を筆者の経験を基に述べてきた。その概略は次の通りである。

 営業1人とSE1人が仕事をすると相乗効果が働き「1+1>2」の式が成り立たなければならない。そのためには営業は営業らしい仕事を,SEはSEらしい仕事を行い,お互いが切磋琢磨することが肝要である。SEが営業の言いなりになったり,営業に遠慮したり,迎合したり,またSEが勝手だったりすると,なかなか相乗効果を発揮できず,1+1<2にしかならない。当ブログの3月9日号で大体こんなことを述べた。

 4月2日号では,この1+1>2を貫くためには,SEマネジャやSEは「SEは営業の補完ではない。馬鹿な営業に利用されない。営業に迎合しない」などが重要であると,わがまま営業に対する戦略的処し方ついて説明した。

 だが,営業とSEの1+1>2のオペレーションを全うするには,当時我々SEも反省し改めるべき点が多々あった。今回はそれについて述べる。

SEが改めるべき最たるもの

 SEが改めるべき最たるものは,次のような点だった。

 SEが営業から何か頼まれたとする。そんな時それが明らかにSEの仕事でないと思うと,すぐ杓子定規に「これはSEの仕事ではない。俺には関係ない」と判断する人が少なくなかった。そして顧客やビジネスなどの状況も考えずにつっけんどんに断ったり,冷たい態度をとったりしていた。仮に,その仕事をやるにしても「営業にやらされる」と愚痴を言いながら嫌々やる。当時そんなSEが結構いた。

 それが問題であった。

 こんな類のSEが多くては,当然営業との間に溝ができギクシャクする。建設的な仕事ができない。お客様に迷惑をかける。以前述べた営業とSE間の助け合いや貸し借りもうまく行かない。これでは話にならない。その姿勢を改めなければ1+1>2には決してならない。

 きっと今も,IT企業の中には営業に対してこのような壁を作っているSEや,腰が引けているSE,被害者的意識を持っているSEなどがいる企業もあると思う。当時筆者は,彼ら彼女らにそれを改めさせたいと思い。日頃ことあるごとに次の2点を徹底指導した。

(1)「営業とSEは一つのチームである」

 まず1番目だが,当時筆者はそんなSEには「営業とSEは同じ顧客を担当する一つのチームなんだよ。君がそのチームの中のSEであることを忘れて貰っては困る。SEの中には往々にしてそれを忘れている人がいる。そんな人は営業などから何か頼まれると,それがSEの仕事かどうか考え,そしてそれがSEの仕事でないと思うとすぐ顧客やビジネスのことは考えずに“それはSEは関係ない”などと言う。だがそれは間違いである。あくまでも第一線部隊では顧客やビジネスが“先”でSEが営業が云々と言うのは“後”である」と良く話していた。

 今も昔もSEの中にはこの“後”と“先”を引っ繰り返して「それは営業の仕事だ。SEの仕事だ」などとビジネスや顧客に無関心な短絡的なSEがいるが,そんな連中には筆者は「どちらを向いて仕事をしているのだ」と言いいたくなる。何故「それを誰かがしないと顧客に迷惑をかける。ビジネスに支障が起こる。それではまずい。営業も大変なんだろうから俺がやろうか」とおおらかに考えれないのだろうか!

 と言うときっと読者の中には「営業がやらないからといってSEが何もかもやるとパンクする。冗談じゃない。納得いかない」と異論を唱える方もいると思う。

 そんな方には筆者は「SEは顧客やビジネスを考えなくて短絡的に自分に関係ないと判断するなと言っているのであって,本来営業がやるべき仕事をSEが幾ら応援しても『申し訳ない』の一言が言えないわがままな営業がいたら『SEは営業の子分ではない。君がきちっとしないと1+1>2にならない』と真正面から喧嘩すればよい」と補足したい。これは以前,営業とSEの“貸し借り精神”で説明した通りである。

(2)やってはならないこと以外はすべてやれ

 2番目は,SEの仕事の範囲をどう考えるかという問題である。

 SEは往々にして「SEは何をやるべきか」と考えて自分のやることを決める。この思考のやり方だと「SEの仕事はこれこれだ。これ以外はSEの仕事ではない」と考えやすい。すると日頃の仕事の中で,「これはSEの仕事だ,これ以外は関係ない」ということになり,結果として両者の間に漏れが生じやすい。野球であれば俗に言う三遊間が抜ける状態である。これでは1+1>2にはならない。

 元々第一線の仕事は,ここまでは営業の仕事,ここからがSEときれいに線が引けるものではない。それぞれがやるべき仕事の基本範囲はあるが,どちらやっても良いグレーゾーンがある。それを,これはどっちだあれはどっち,と考えるところに無理がある。

 そこで筆者はこの漏れをなくし,チームとしてしっかりした第一線の仕事をやるために「SEが営業と仕事をする時は『SEは何をやるべきか』ではなく『SEがやってはならないことは以外はすべてやる』と考えろ」と部下に要求していた。

 「ただ,SEがやってならないことは3つある。それは価格と納期と契約書の3点だ。これだけはSEは手を出すな。この3点はSEがやって間違えたら責任をとろうにもとれない。しかも下手をすれば営業の首が飛ぶ」とも話していた。

 この「やってはならないことは以外はすべてやる」という考えをSEに浸透させるのに結構苦労はしたが,軌道にのると営業との関係は結構うまく行った記憶がある。

 以上,筆者が現役時代に「1+1>2」の実現を目指して営業とSEの関係強化のために特に力を入れて指導した2点について述べた。

IT企業にとって営業とSEは車の両輪

 IT企業にとって営業とSEは車の両輪である。家庭に例えると旦那と奥さんである。旦那と奥さんが相手の仕事や悩みや思考のやり方を知らずに自分勝手な行動をしたら,夫婦関係がギクシャクする。下手をすると冷たい関係になりかねない。これは営業とSEの関係も同じである。お互いがお互いを知る努力をし,理解しあい,協力しあい,励ましあいながら二人三脚で仕事をして,初めて前に進み「営業+SEが1+1>2」になる。

 レベルの低い営業と仕事をすると「この仕事は営業だ,SEだ」と言うSEの気持ちは分からないでもない。だがそれに固執していてはよい仕事はできない。会社も困るし顧客にも迷惑をかける。

 重ねて言いたい。「営業やSEが先ではない。あくまでも第一線部隊では顧客やビジネスが先である。そして営業とSEは車の両輪であり,一つのチームである」。

 これが今日の一言である。

 SEの方々はそう考えて,ぜひとも第一線で頑張ってほしい。それがきっと会社の成長と,これからの皆さんのSE人生に役立つはずである。

 なお,今回述べたこの2つの考え方は,SE同士,例えばあるプロジェクトでアプリケーション担当SEとネットワーク担当SEが一緒に仕事をする時も同じである。するとプロジェクトチームもまとまる。