今も昔も営業とSEの関係は難しい。

 筆者は現役時代いろいろな営業と仕事をした。親切な営業,売り込みの上手い営業,SE的な営業,MVPに輝いた営業,わがままな営業,いまいちの営業,SEを子分の様に使う営業,など色々いた。そして感心したこと,頭に来たことなど様々な経験をした。そのあいだ,営業とSEの関係で悩んだ。

 その結果,筆者は「営業1人とSE1人が仕事をしたら相乗効果が働き『1+1>2』の式が成り立たなければならない。そのためには営業は営業らしい仕事を,SEはSEらしい仕事を行い,お互いが切磋琢磨することが肝要だ。SEが営業の言いなりになったり営業に遠慮したりSE勝手だったりすると『1+1<2』にしかならない。どの企業もそれを望んではいない。それでは第一線のビジネス戦力が強化できず脆弱化するからだ」と結論付けた。

 そしてそれを,営業とSEの関係を考える上での原理原則にした。前回そんなことを述べた。

理不尽な要求は拒否せねば「1+1>2」は貫けない

 だが,この「1+1>2」はあくまでも考え方であって,それを実際に全うすることは容易ではなかった。

 営業の中には立派な営業マネジャや営業もいたが,中には総論では賛成しても各論になると態度が変る営業マネジャ,前回述べた「お互いの助け合いや貸し借りの精神」が分らないわがままな営業などいろいろな人がいたからだ。きっと今でもそうだと思うが,彼らはしばしば「冗談じゃない。それでは1+1>2にならない,もう少し営業は勉強しろよ」などと言いたくなる様な類の理不尽な要求をしてきた。

 しかし「それはNOだ。サポートしない」と文句を言っても,多くの場合「今月契約をもらうにはSEの支援が必須だ」「お客様の要請だ」などと言う声に押し切られた。時には事業部長やトップから「SEは云々」という命令が飛んで来たこともあった。きっと「SEが支援しないから売れない」などと上司などに訴えたのだと思う。まあ,SEは立場が弱いから,抵抗してみても大体こんなパターンになることが多かった。きっと今でもこの様な状況は大差ないと思う。

 しかし,これでは「1+1>2」を貫けない。

 そこで筆者は考えた。「営業が理不尽な要求や納得できない要求をした時,上手く断る術はないか?営業がなるほど俺達も改めた方が良いかも?と思う様な殺し文句はないか?波風を立てずに彼らに勝つ方策はないか?ギャフンと言わせれる良い手はないか?」と色々考え悩んだ。

 そして,筆者は営業の職務や彼らの弱みや強みを勉強した。尊敬している営業部長にも相談した。わがままな営業などを対象に試行錯誤もやってみた。そして段々と,筆者流の理不尽な要求を断る時のセリフを考え出した。そのセリフは色々あるがそ,の中で当時良く使っていた3点を次に紹介する。

殺し文句1。「SEは営業の補完ではない」

 営業の中にはすぐSEに「資料をまとめてほしい,○○をやってほしい」と言う営業がいる。普通の営業はその程度のことは自分でやっているのにだ。彼等はスキルがないのか,SEを上手く使おうと思っているのか,忙しいのか。それは定かではないが,SEに仕事を押し付けたり,頼む格好してSEを子分のように使う。それでは「1+1>2」の論理に反する。

 だが,断ると彼等は数字で圧力をかけたり,顧客のせいにしたりして,SEが引き受けざるを得ないようにする。

 そんなわがまま常習犯の営業は,筆者のSEの誇りが許さなかった。

 そしてクールに「営業が困った時やスキルがない時,その営業を助けるのは営業マネジャの仕事ではないのか!。SEはできの悪い営業を補完するためにあるのではない。文句があるならどちらが正しいか,トップの前で討議しようか」と言っていた。

 すると彼らは「喧嘩するのはヤバイ」と思ったのか引っ込んでいた。そして段々と「申し訳ないが....」と言う貸し借りの姿勢に変って行った。もちろん,そこには営業が「SEは営業の補完だ」とは,とてもトップに言える訳がないという筆者の読みがあった。

殺し文句2。「SEに相談ナシに売ったモノは営業にやらせる」

 営業の中にはSEに相談もしないで製品を売ったり,ちょっとしたシステム開発などを引き受けて来る営業がいる。彼等は往々にして「営業は契約を貰うのが仕事。後はSEにやらせれば良い」と考えている。

 筆者はそんな,SEをこけにする営業は許せなかった。SEは営業の子分でもマンパワーでもないからだ。

 彼らはSE職種が何のためにあるのかなど,考えたこともない筈だ。それを分らせるため,筆者はそんなシステムの導入や開発は断っていた。

 その時の殺し文句は「SEに相談もなかったシステムに俺は責任を持てない。だが,幸い君は自分で売ったのだから,システムの技術上の問題点を自分で判断できる筈だ。それだけの技術力があるのだから,この導入や開発は君が協力会社のSEとやってほしい」だった。

 その営業は困って頭を抱えていたが,その後SE抜きでの提案はしなくなった。

 技術的検討をしない提案システムは後で問題を起こしやすいし,SEをこけにするとSEはモラールを下げたり責任感や誇りを失い,「1+1>2」の邪魔になる。筆者はSEの責任者としてそう考えていた。もちろん,SEは営業の子分でもマンパワーでもないと言うこともだ。

殺し文句3。「SEは一営業のために働いているのではない」

 SEマネジャが営業ひとりひとりの要求を聞いていては,SEが何人いても足りない。時には営業の要求をうまく断りたい時がある。ピーク時でSEが誰もいない時や,支援しても売れそうにない時,生産性の低い仕事やSEを子分扱いする嫌な営業から要求された時などだ。

 そんな時,筆者はその営業に対し「俺のグループは,君の目標達成のために働いているのではない。君の課(グループ)のビジネス目標を達成するために働いている。君のその仕事より,○○営業の仕事を支援した方が,君の課の目標が達成できるから,そちらを支援する。今回はゴメン。頑張ってな!」と断っていた。

 このセリフはSEマネジャが営業課・部のビジネスに明るくないとなかなか使えないが,これを言われた営業は一営業の立場では文句が言えず困っていた。

正論を毅然として述べる

 以上色々述べたが,SEマネジャが「1+1>2」を全うするために営業と闘う時のポイントは,「トップの前でも通る正論を毅然として言う」ことだ。ローレベルな次元で営業に振り回されるのではなく,「トップや顧客に聞け」などと土俵を変えて闘うことだ。

 要は権力がある営業陣と戦うには,会社のため,顧客のため,それらを錦の御旗にして論理的に話すしかない。それが会社はもちろんSEのためにもなる。それができないと便利に使われて部下を潰しかねない。それが今日の一言である。

 言うまでもないが,筆者流の闘いをするには,SEマネジャは営業の要求に対してビジネス上の判断ができること,そのためには日頃ぶら訪問などで顧客の状況など知る努力をしておくこと,営業と酒の場などでいろいろな情報を仕入れておくこと,ビジネスセンスを持ったSEを育てておくことなどが肝要である。ビジネスに疎く顧客に顔も効かないようでは「1+1>2」は貫けない。

 なお,筆者の考えに異論のある方もおられると思うが,当時筆者が関係した営業課・部は10年間で年間ビジネス目標を9年達成した。きっと,営業とSEの切磋琢磨のもとに「1+1>2」が実現できたのだと思っている。