大手のユーザー企業を相手にSIビジネスを手掛ける大手ITサービス会社にとって、中堅・中小企業マーケットに参入することは難しい。では、中堅・中小企業を相手に商売するITサービス会社が大手企業向けのビジネスに乗り出す場合はどうか。やはり難しい? 以前ならイエス。しかし今は、必ずしもそうではないらしい。

 連休前に、中堅・中小企業向けのビジネスを手掛けるITサービス会社の人と話をした時、その人から「我々のビジネスモデルが大手企業にも通用することが分かった」との話を聞いた。その企業は、ERPなどのパッケージソフトを核にしたSI事業を手掛けている。

 中堅・中小企業の多くはしっかりした情報システム部門を持たないから、そのITサービス会社は顧客企業の経営者やエンドユーザーから直接課題を聞き出す習慣が身に付いている。そして、パッケージをベースしたソリューションを提示することで高い収益を上げ、成長してきた。で、そこそこの大手ユーザー企業なら案件を受注できるぐらいの企業体力がついてきたので、そうした案件にチャレンジしたところ受注できたという。

 うーん、こう書くと、あまりに真っ当で、何の面白みもない話。ここまで読んできてくれる読者がいるのかと思うほどだ。ただ今でなくて以前なら、このビジネスモデルで大手企業向けの市場に参入するのは難しかった。なぜならば、以前なら大手企業にはしっかりしたシステム部門があり、どんなシステムでも自分たちの主導で作っていたからだ。

 ところが今は、何度も書いているように大手ユーザーでも多くの企業でシステム部門が弱体化した。つまりITに関して、大手企業が“中堅・中小企業化”したのだ。だから、ずっと中堅・中小企業を相手にしてきたITサービス会社のビジネスモデルが大手でも通用するようになった。

 一方、大手のITサービス会社の場合は長らく、ユーザー企業の強いシステム部門の存在を前提にしたビジネスモデルだった。つまり、システムは企画・設計したものの、開発のための人員確保に悩む顧客のために、技術者を需要に合わせて安定供給することで収益を上げてきた。この話は前回書いた通りだ。

 当然、このビジネスモデルでは中堅・中小企業など開拓することはできない。それどころか、大手企業の“中堅・中小企業化”現象で、今は仕事がいくらでもあるといっても、このままでは将来が危うい。最近では、さすがにビジネスモデルを変えようという動きも出てきたが、まだまだ過去の残滓を引きずっている。中堅・中小企業相手のビジネスで育ったITサービス会社から見ると、大手企業という新しい市場でチャンスが広がりそうだ。

 だが実際は、そうとも言えないからややこしい。中堅・中小企業を相手にしてきたITサービス会社にとって、大手ユーザー企業の要求の中には理不尽なものが多い。特に保守なんかでは、「それじゃあ、利益出ないよ」という要求を平気で出す。御用聞きをもっぱらにする大手ITサービス会社なら、承ったうえで下請け会社に丸投げできるが、新参者はそうはいかない。意外にも、この大手ユーザー企業という市場は“負の遺産”によって守られているわけだ。