前回は、顧客担当者と有効な関係を構築するための方策を紹介しました。今回の5分間指導では、顧客から上手く情報を引き出す方法を紹介します。今回は坂本とのエピソードです。

 私は坂本には、人間心理を利用したヒューマンコントロールについて教えていました。坂本は、人間関係で悩んだ経験があったので、人間の心理に関して、よく理解してほしいと思ったからです。

 そこで、人の心理とは何か、それを人工的にコントロールするということを、交渉や説得というビジネスの基本的な行為とともに教えていました。

相手を知ることの意味

芦屋:坂本、交渉したり、説得する上で特に重要なものは何だと思う?

坂本:うーん。難しいですね。強く言い切って反論させないことですかね。押しの強さとか、理屈とか、すぐ返しができる機敏さとかですかね。

芦屋:そうか、やや抽象的な答えだな・・・一般に、交渉する際にも、相手を説得する場合でも、重要になるのは自分が相手の「スタンス、ニーズ、考え、要望」を理解しておくことだよ。一方、自分の情報は、相手に知られないようにする。自分を隠しながら、相手の情報をどれだけ聞きだせるかが、上手く交渉したり、相手を、自分の思うとおりに説得する際に重要になるんだ。

坂本:それはなぜですか?

芦屋:理由は簡単だよ。相手のニーズが分かっていれば、それを小出しに出していけるからなんだ。たとえば、坂本が、ソフトウェアベンダーの担当者で、顧客とSI費について価格交渉をするケースを考えてみよう。値引き交渉にあたり、坂本は20万円まで譲歩してもいいかなと思っている。この場合、相手が「これでOK」と思っている値引き金額が分からなければ、君は、いくらの値引きからスタートしていいか分からないはずだよ。

坂本:それは、そうですね。

芦屋:いきなり、20万円値引きしてしまえば、相手は「もっと値引きさせられる」と思い、君は20万円以上の値引きをせざるを得ない状況に陥ってしまう。これは、典型的な交渉下手のやることだよ。

坂本:なるほど、そういわれれば。

芦屋:でも、君が、最初から相手の要望が10万円値引きだと知っていれば、非常に楽になる。相手の要望は10万円だから、1万円からの値引きでスタートし、数回の後10万円の値引きで終わらせればよいからだよ。岡田にも説明したんだけど、交渉は時間をかければかけるほど、手間の数だけ満足感が高まるんだ。

坂本:面白いですね。

芦屋:交渉をしたり、説得をする上で、「相手のことを知っている」ことは、非常に重要で、基本中の基本となるんだ。

坂本:なら、相手から情報を引き出すには、どうすればいいのでしょうか?

芦屋:そうだな。まず、聴き方、伝え方の基本を考えていこう。大事なのは、「相手が気持ちよく、喜んで話す」ような話法を使うことだ。これには、いくつかのポイントがある。わかるか?

坂本:いえ、そういうことは今まで考えたことがないので。

芦屋:基本となることから言うよ・・・まず、話を聴く大前提は、相手の意見、考えに同意し、話してもらっていることに感謝の意を示すことだ。これは、顧客との話に限らず、上司、同僚、関係部門の担当者などでも同じだよ。「~おっしゃるとおりですね。当方も、そのように考えていたところです。」、「~なるほど、やはり、そういうことになるのでしょうね。」などの話法を使う。こんな簡単なことでも、長い間使っていると、相手はずいぶん話しやすくなるんだ。

坂本:なるほど、でも、相手の話にYESばかりじゃまずいこともあると思います。そんなときは?

芦屋:相手の話に対して、異論、否定をしておきたい場合は、「できません、違います」という強いニュアンスを最初に持ってくるのではなく、「おっしゃるとおりです、ただし、若干気になるところが~」という具合に対応することが、相手をさらに話す気にさせるポイントなんだ。また、これからが大事だからよく聞いてほしい。相手に報酬を与えながら話すと相手から情報が返ってくるものだよ。

坂本:相手に報酬を与えながら話す?情報が返ってくる?どういうことです?

芦屋:これは、「報酬を与える」ことで、相手から情報を引き出すテクニックだよ。「~説明資料を当方で作成するようなお手伝いができませんか?」、「~こんな資料を作成できますけど、意見交換させていただけますか?」という具合に話すんだ。お客さまは、単なる業者に大事なことを簡単に話してはくれないよ。相手が話すことで、メリットがある状況を作るんだ。

坂本:メリットがある状況?

芦屋:顧客担当者も上司や関係部門に、仕事上の説明をする必要があるんだ。だから、彼らの手間が省けるプロポーザルをして、必要な情報を話してもらえるようになるんだ。俺は、よくこの方法を使ったよ。顧客担当者が複数業者でコンペをしていた際、提案依頼資料の基になる資料を作成して、見せたところ、非常に喜び、情報をくれたよ。今度の販社のケースでも、上手く使えるはずだよ。

坂本:うーん、考えればいろいろあるんですね。

芦屋:坂本、こういうふうに考えていけば仕事は楽になるんだ。一見難しい仕事でも、考えれば答えは出てくる。それを理解してほしいんだよ。

 私は、5分で坂本にこういう話をしました。ここで教えたかったことは、3つありました。それは、

「交渉や相手の説得には、相手の情報が必要になる」

ということ、

「相手の情報を引き出す会話術がある」

ということ。そして、

「工夫すれば仕事は楽になる」

ということだったのです。


ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易テスト

 芦屋広太氏とネクストエデュケーションシンクの共著「IT教育コンサルタントが教える 仕事がうまくいくコミュニケーションの技術(PHP研究所)」 が出版されました。同書の特徴は,読者がWebサイトで書籍と連動したコミュニケーション・スキルのテストをオンラインで受験し,セルフチェックできるこ とです。スキル・テストは本来購入者だけに提供していますが,ネクストエデュケーションシンクでは,ITpro読者向けに簡易版テストを無料で提供しま す。受験者の中のあなたの順位を知ることもできます。ぜひ受験して,あなたのコミュニケーション・スキルをチェックしてみてください。

ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易版セルフチェックはこちら

アンケートページから本ページへ戻ってしまう場合は,ブラウザ等のポップアップブロック機能を一旦無効にしてください。詳細はこちら