前回は,指摘項目表のB(文章表現に問題あり)について説明しました。文書を書く上での「駄目表現」としていくつかの事例,
(1)受身表現 (2)変なお詫びや敬語表現 (3)重みの違うものを無機質に同レベルで書く |
を紹介しました。
このような駄目表現はまだまだあります。文書の目的や読んでもらう相手によって「何が駄目か」という定義も変わってきます。つまり,駄目表現のバリエーションは無限で,とてもこの場で紹介しつくせません。
上司や顧客に“駄目出し”される表現とは
そこで今回は,顧客や社内の経営層レベルなど,意思決定業務を行う人向けに「書いてはいけない」表現を2つ紹介しましょう。この表現は両方とも,多くの人が知らず知らずに使ってしまう表現です。使う方は便利なのでしょうが,読む方は苦痛を伴い,あいまいで理解できないという典型的な駄目表現です。
(1)修飾語が長いセンテンス
日本語は,ある語句を前から修飾することができる言語です。これは,書き手にとっては便利な反面,読み手にとっては辛いことが多く,注意が必要です。
このような文法が許されると,主語と述語までの間に修飾語が入ってしまうので,主語と述語の関係(=誰が何をするのか,したのか,したいのか)が分かりにくくなります。
これだけでも分かり難いのですが,修飾語は接続詞を使っていくつも入れることができるため,修飾語が好きな人は,語句の前にたくさんの修飾語が入るという異常に長いセンテンスが存在してしまうのです。
例えば,以下のようなお客さま向けの依頼文書があったとします。
1.要件のご確認に関して
今回の貴社インターネットサイト向け注文システム構築に関しては,貴社事務部門,企画部門のご担当者様の正しいご要望を確実に当方が把握できるようにヒアリングを実施させていただきます。 |
上記の文章の骨子は,「ヒアリングを実施したい」ということですが,それまでに長い修飾語やヒアリングをしなければならない理由などが書かれており,非常に読み難いセンテンスです。
このセンテンスを分解すると「ヒアリングを実施したい」が主張,主張の理由は「正しいご要望を確実に当方が把握する必要がある」からです。そして,ご要望の主は「貴社事務部門,企画部門のご担当者様」ということになります。
私が添削する場合は,以下のように直します。
1.要件のご確認に関して システム構築に当たっては,ヒアリングを実施させていただきます。 ⇒貴方のニーズを確実に把握させていただくために必要ですのでよろしくお願いします。 ⇒対象は,貴社事務部門,企画部門のご担当者様とさせていただきます。 |
文章には,目的に適った書き方があるため,一概に言えるわけではないのですが,一つのセンテンスに主張,理由,装飾語,目的語などが不規則に混在すると読み手にとって非常に理解しずらい表現となります。
このように文章が読み難いと読み手は苦痛に感じます。そうなってしまうと読み手は文書の内容自体に関係なく,文書表現の不快さに腹をたて,説得できくなくなる恐れがあるので注意してください。
(2)抽象的な表現が多い文書
もう一つの駄目文表現は,時間,コスト,規模を表現するときの表現があいまいで抽象的な文書です。
あいまいなものとは,例えば,
「かなり多い」,「コスト的に厳しい」,「日程的に苦しい」,「とても厳しい」「現実的ではない」,「著しく困難」,「難しくてリスクがある」,「かなりリスキー」,「業務に耐えられないほどの」,「実際問題として不可能」,「無理に等しい」・・・ |
などの表現です。これは,意思決定を目的とする文書などでは致命的な駄目表現で,読み手を怒らせる原因になります。
要は,正しく具体的な期間,コスト,規模などを語れないからこのような表現で誤魔化そうとするのですが,意思決定を行う人が読み手の場合,判断の根拠を見出せないから困るのです。
完璧に時間,コスト,規模を語れない場合もあるでしょう。けれども,それであいまいな表現を使ってよいという理由にはなりません。他人を説得したいなら,具体的な表現を日頃からできるように注意しなければならないのです。
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