前回まで指摘事項の分類A(説明に問題あり)を考えてきました。今回からは,指摘事項分類のB(文章表現に問題あり)について説明していくことにします。

 この分類には,多くの文章表現上の問題が含まれます。今回の指摘項目表では,以下のような文章がこれに該当します。

(1)「意思が弱い表現や受身表現のため,主体的な意思が感じられず,説得力が欠乏している。」
(2)「口語体表現や稚拙表現のため,説得力がない。」
(3)「接続詞が不適切。助詞や主語述語の関係がおかしく,書き手の品位が疑われる。」

文章表現が「書き手の印象」を左右する

(1)「意思が弱い表現や受身表現のため,主体的な意思が感じられず,説得力が欠乏している。」

 このように書かれた文章が登場する代表に「トラブル報告書」のような「不具合」や「ミス」の報告書があります。

「~が原因であり,○○により該当事象が引き起こされた。」

というような使い方です。

 確かに,ある原因でトラブルが引き起こされたのでしょうから,この表現は間違っているとは思いません。しかし,例えば,これをベンダから提出された顧客側担当者はどう感じるかを考えると,心象的に問題がある表現と言わざるをえません。

 それは,この表現が「他人ごとで,ベンダーが主体的に解決しようとしている誠意が感じられない」からです。

 当然,書いている方はそのような意図はないかもしれません。しかし,文章表現によっては,読み手に「書き手の誠意や主体性」に関する印象を持たせてしまいます。どうせ,書くなら,「主体的に解決に動く印象を持ってもらえる」表現にした方がよいのです。

(2)「口語体表現や稚拙表現のため,説得力がない。」
(3)「接続詞が不適切。助詞や主語述語の関係がおかしく,書き手の品位が疑われる。」

 また,(2)は,さほどひどい表現を見ることはないのですが,それでも気になるのがお詫びや敬語の使い方です。

販売管理システム・ファイル共有化不具合の件に関するご報告

 このたびは,販売管理システム・ファイル共有化で不具合おこし,ご迷惑をおかけし,すみません。事象判明時より開発元と分析・再現にあたってきましたが,このたび原因が判明したので,ご報告し,対応を検討いただくようお願いします。

 上記は,ある会社のシステム構築を請け負っていたベンダーの12年目のPMが書いてきた報告書です。確かに内容は間違ってはいないのですが,文書としては,あまりよいものではありません。

販売管理システム・ファイル共有化不具合の件に関するご報告

 このたびは,掲題の不具合により,貴社には大変ご迷惑をおかけしており,誠に申し訳ございません。事象判明時より開発元と分析・再現にあたって参りましたが,このたび原因が判明いたしました。下記のとおりご報告させていただきますので,対応を検討いただくようお願い申し上げます。

 これは,特に新しいことでもなく,あたりまえの表現なのですが,現場では,上のような稚拙な表現の文書もやり取りされているのです。そして,このような表現の文書は,確実に書き手の印象を悪くするので,注意が必要です。

 これは,(3)についても同様です。文章表現を一通り学ばないと,説得力を弱めることはもちろん,知らず知らずのうちに読み手に「悪い印象」を与える文書を書いてしまうことになります。

まだまだある駄目な文章表現

 今回の「指摘項目表」にはありませんが,ビジネス文書において,ITエンジニアがよく書く「駄目な文章表現」を紹介しましょう。これらは,私が,ITエンジニアの書いた決裁書(稟議書),レポート,企画書などのビジネス文書をチェックして,その都度書き直しを命じてきた表現です。

【駄目ケースその1:取りうるケースは常に同レベルで書いてしまう。】

 ITエンジニアは,プログラムロジックを長く書くので,メインのパスも,年間数回のレアなパスも,取りうるパスならば,すべて同じレベルで書いてしまう傾向があります。しかし,意思決定者はレアなパスを,メインパスと同じようにかかれると混乱します。

 例えば,若者向けの通信販売で,メインの受注ルートはインターネットサイト・携帯サイト(95%),電話(4%),葉書(1%)の場合があったとします。

 ITエンジニアが書くと,どうしてもすべてを書かないといけないと思ってしまうようで,以下のように,同レベルに併記し,詳細に説明をしてしまうことが多いのです。

 注文の受付は,以下で行う。
1.インターネットサイト,携帯サイト
2.電話
3.葉書

 しかし,この場合の2と3「電話と葉書」は,合計で5%と微少です。このようなケースでは,上層部の説明(意思決定)では,かえって書かないほうがすっきりして分かりやすいということを理解してください。もし,どうしても気になって書きたい場合は,以下のように※で補足すれば表現としては問題ありません。

 注文の受付は,インターネットで行う。

※なお,一部のケースでは「電話,葉書」も可

 このように,文書表現は書き手の考え方で印象がかなり変わってきますので,「どうしたら,よい文章表現になるか」を常に考えることが欠かせないのです。

 さて,次回もこの続きを説明します。「駄目な文章表現」の続きとして,「修飾語があまりに長いセンテンス」,「抽象的な形容詞の多用」について説明します。

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