これまで5回にわたり,「説得力をもった文章とは何か」を説明してきました。
私が実施してきた試験論文の添削指摘項目を,指摘理由ごとに分類(指摘項目表はこちら)し,何が説得力を弱めているのか,どうすれば問題は解決するのかを説明します。
前回は,「多くの文書が説明不足,説明漏れとなっているが,このような文書を,顧客は非常に嫌がる」ことについて説明しました。
次に,「なぜ,分からない文章になってしまうのか」について,原因の一つに,人間は「自分の常識を省略する」という傾向(自分が分かっていることは他人も分かっているはずという強く思い込みがある)が関係していることを説明しました。
そこで,今回は,「省略しない」ための方法について説明します。
常識を省略しないための工夫
前回,自分が書いた文書を他人が理解できない原因の一つに,「前提の違い」があるということを説明しました。
例えば,ITエンジニアと顧客担当者(IT以外の業務を担当)は,もっている知識,経験,考えなどが違い,常識であることも違います。
別の話しとして,人間は,自分が常識と思っていることを「前提」として省略して書く傾向があります。
この二つの事情が,「分からない文書」を作る原因の一つとなっています。
ITエンジニアは,システム開発に関する常識を省略した「顧客向けの文書」を書き,顧客担当者は,省略された文書がよく分からないのです。前提が違うのですから,あたりまえの話です。
このようなことがおきないようにするには,「省略しない」ようにすればいいのです。しかし,無意識に「省略してしまう」のですから,これを変えるのはかなり意識しないと難しいものです。
そこで,意識つけるための方法をいくつかお教えしましょう。それには,「(1)他人の力を借りる」方法と「(2)自分で注意する」方法があります。
(1)顧客担当者にチェックしてもらう
最も楽なのは,他人に「省略」を指摘してもらうことです。ただし,「前提」が同じ人では意味がないので注意ください。顧客向けなら,当然,顧客担当者に見てもらわなくてはなりません。
人間関係を友好に保っている顧客側担当者(新人や入社2~3年目ではなく,もう少し上の層)に事情を話し,積極的に文書をチェックしてもらうことです。文書をチェックしてもらうと,今まで気づかなかった顧客の視点を得るメリットもあります。
(2)チェック表を使う
自分で意識できれば,分からない文書など書かないはずですから,これはなかなか難しい方法です。有効な方法の一つは,チェック表を使う方法です。顧客側の担当者や上司の業務内容,システム開発経験,IT知識などを考え,自分の書いた文書に問題がないかをチェックできるようなリストを用意するのです。
文書中にIT用語やシステム開発作業特有の考え方(要件定義,設計,テスト,移行)などがあれば,これを分かりやすく言い換えできるように説明を補足します。この方法では,当初は運用は面倒かもしれません。しかし,次第に慣れ,意識しなくても分かりやすい文章が書けるようになるという効果もあります。
どちらの方法にしても,書くうちに次第に省略しないで,分かりやすく説明するという意識が習慣化するので,文章能力の向上が期待できるのです。
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