前回は,私が添削で指摘した内容のうち,約半分が「説明に問題あり(説明不足・意味不明)」であることを紹介しました。

指摘項目表

 人間は意識して文書を書かないと「説明不足や説明漏れ」になることが多いこと,「なぜ,説明不足になるのか」もあわせてお話ししました。今回は,これらをもう少し詳しく説明します。

顧客が"嫌がる"文書

 表の『A説明に問題あり。(説明不足・意味不明)』の内訳を見ると,

「(2)主張が分かりにくい・説明不足・意味不明,パラグラフ,センテンスが分かりにくい・説明不足・意味不明」

「(3)主張の理由・論拠がない・説明不足・意味不明」

 の2つがそれぞれ9で,多くの割合を占めていることが分かります。上記(2)と(3)のケースは今回のサンプルでも非常に多いのですが,私がいままで添削した文書の多くでもこの傾向は一致しています。

 つまり,駄目な文書の原因の多くは,主張(何をしたいのか)と理由(なぜするのか)が弱いということです。これは,言い換えると主張や理由が「不明確である」か,「まったく説明できていない」ということなのですが,これは本人が思う以上に書き手に低い評価をもたらします。

 私は,長い間ユーザー企業の情報システム部門で,システム企画やプロジェクトマネージメントを経験し,システムの調達,業者選定などを担当してきました。そこでは,多くのベンダから提出された文書を読む機会がありました。提案書はもちろん,契約書,外部仕様書,テスト計画書のようなものから,システムトラブルの報告書,詫び状など,多くのジャンルの文書を見てきました。

 このような顧客の立場での経験から言えることは,頂いた文書を見て「思わず嫌な顔をしてしまう文書」と「そうでない文書」があるということです。そして嫌がる文書というのは,今回説明した主張や理由が「不明確である」か,「まったく説明できていない」文書なのです。

なぜ,嫌がるのか

 文書には,さまざまな目的がありますが,そのなかで重要な機能の一つに「他人に何かを伝え,判断してもらう」があります。

 例えば,あるユーザー企業A社の販売管理システムをベンダB社が構築しているとします。そして,あるとき,A社の要求している機能の実現が難しく,ベンダB社が,代替策か,その機能を諦めてほしいと思い,A社の担当者に「このことを説明するための文書」を書いて,A社の担当者に持ってきたとしましょう。

 この文書が分かりにくかったり,理由が不明確であれば,A社の担当者は困り,不機嫌になるでしょう。なぜなら,担当者は「上司」に分かりやすく説明しなければならないのに,それが分からないからです。

 出てきた文書が良く書けていて,分かりやすく納得できるものであれば,そのまま上司に見せて説明すればよいのですが,そうでなければ,担当者は上司に自分の言葉で説明しなくてはならないのです。このために,担当者はベンダーの担当者にたくさん質問して情報を収集することになります。

 私の経験でも,このような文書は,いつも「内容が分かりにくいか,理由が不明確で納得できない」ことが多くかったため,いつも上司に自分が書いた文書を見せて説明しなくてはならなかったという記憶があります。

 顧客と良好な関係を築きたいなら,文書は非常に大事です。そのためには,主張が分かりやすく,理由に納得感のある文書を書かなくてはなりません。

では,どうしたら分かりやすくかけるのか?

 前回説明したように,あるテーマの文書を書く人は,そのテーマに精通した人であることが多いため,「自分の常識は省略する」傾向にあります。例えば,以下のような文章があったとします。

・テストは○○日から,□□機能・・・・▲▲機能までを実施していただきたく存じます。

 ITエンジニアにとってテストの目的や効果は,あたりまえすぎる話(常識)です。しかし,システム開発知識がない人にとっては,そうでないことが多いのです。

 つまり,ある人には常識で,あたりまえのこととして省略してしまうことが,他の人には常識でなく,結果大事なことが省略された「まったく分からない文章」になるのです。これは論理学の世界で「前提の違い」と呼ばれます。

 前提が同じ(ITエンジニア同士)なら,テストの目的を省略しても理解してもらえます。でも,前提が違う人たちの間では,省略は説得力を失わせる大きな原因になるのです。

 だから,重要なのは「省略しない癖」をつけることです。あたりまえのことでも「あえて書く」という非常に基礎的なことが,説得力を向上させるカギになるのです。

・テストは,構築してきたシステムの動作を確認するステップです。
・貴方の業務を円滑に遂行させていくために,次のようにテストを実施させていだだきます。
・テストは○○日から,□□機能・・・・▲▲機能までを実施していただきたく存じますので,ご理解いただきたくお願いいたします。

 上記のように書けば,顧客から非常に好まれる文章になります。ここまで,あたりまえのことを書くと,違和感があると思われるかもしれません。でも,実際にシステム構築を経験したことがない人は「忙しいのに,なぜ,わざわざテストをしなければならないの」と考えていることも多いのです。

 自分の常識が文書の説得力を奪う---このことをよく理解してください。さて,次回は,省略しないためのテクニックについて紹介します。

ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易テスト

 芦屋広太氏とネクストエデュケーションシンクの共著「IT教育コンサルタントが教える 仕事がうまくいくコミュニケーションの技術(PHP研究所)」 が出版されました。同書の特徴は,読者がWebサイトで書籍と連動したコミュニケーション・スキルのテストをオンラインで受験し,セルフチェックできるこ とです。スキル・テストは本来購入者だけに提供していますが,ネクストエデュケーションシンクでは,ITpro読者向けに簡易版テストを無料で提供しま す。受験者の中のあなたの順位を知ることもできます。ぜひ受験して,あなたのコミュニケーション・スキルをチェックしてみてください。

ITpro読者向け コミュニケーション・スキル無料簡易版セルフチェックはこちら

アンケートページから本ページへ戻ってしまう場合は,ブラウザ等のポップアップブロック機能を一旦無効にしてください。詳細はこちら