「IT業界に我々の問題の解決を期待すること、つまりソリューションを求めること自体に無理があった」----。ユーザー企業にこう言い切られてしまっては、“ソリューションプロバイダ”を旗印に掲げるITサービス会社としては切ない。これは、ある大手流通企業のCIOの発言だが、大手企業、いわゆるIT先進企業のIT担当者からは、よくこんな話が出てくる。いい機会だから、手垢が付いた「ソリューション」の意味を考え直してみたい。

 日経ソリューションビジネス6月15日号の特集『CIOの直言』には、冒頭のCIOの発言も含め、「問題解決は自分たちの仕事、ソリューション提案なんか要らない」という、ユーザー企業の声で満ちている。ある意味、それは結構なことだ。自社のIT化を担うことに対する強い自負心を感じる。しかし、こうした発言には多少の違和感もある。多くのユーザー企業がITサービス会社に対して、「ソリューションを提案してほしい」と言い、「ソリューションが提供できていない」と怒っているからだ。

 問題はソリューションの中身である。IT業界では、ソリューションというと一般に、ユーザー企業の経営課題、業務上の課題に対する解決策を指す。そして多くの場合、それは情報システムの形をとる。ITサービス会社はそうしたソリューションを提供できるようにならなければいけない----多くのユーザー企業やITサービス会社自身がそう信じている。しかし、よく考えると何かがおかしい。ユーザー企業から見ると、それって単なる丸投げではないのか。

 経営課題に対し、ITによる解決策を提示する直接の責任は当たり前だが、その企業のCIOや情報システム部門にある。従って、CIOや情報システム部門が外部のITサービス会社に対して、その手のソリューションの提案を要求するのは、自身の仕事を丸投げしているのに等しい。前にも書いたように、情報システム部門は自社の経営者やエンドユーザーに対しては、社内のソリューションプロバイダである。

 マスコミに登場するようなCIOは、匿名のアンケートに答えるだけのCIOと異なり、自信もあり、その辺りのこともよく分かっているから、「ITサービス会社にソリューション提案など求めない」と言う。ただ、「ITサービス会社にソリューション提案は無理」と言われると、それは微妙である。同じソリューションを提供する立場である以上、情報システム部門にそれができるならば、外部のITサービス会社でも、大変な努力が必要だろうが、論理的には可能だからだ。

 さて、こうした先進企業を相手にする場合、ITサービス会社は情報システム部門の“下請け”にまわるしかない。つまり、自社の経営者やエンドユーザーにソリューションを提供しようとしている情報システム部門が直面する課題に対して、その解決策を提供する立場である。それは新しい技術であったり、ヒューマン・リソースであったりする。まさに、それが顧客の求めるソリューションということになる。

 ソリューション提案は課題解決策の提示である以上、相手が誰で、どんな課題を持っているかを見極めないとピント外れになる。著名CIOのいる先進企業に、「御社の経営課題は・・・」などとプレゼンをする猛者の話をたまに聞くが、たいていは「差し出がましいことを言うな」と追い返されてしまっているようだ。

 一方、「(経営課題を解決する)ソリューションを提供してほしい」というユーザー企業の場合はどうか。CIOという役職、情報システム部門という組織のあるなしにかかわらず、社内にソリューションプロバイダがいないから、そういう要望が出てくる。中小のユーザー企業のことを考えれば、それは容易に想像がつくだろう。

 中小企業の経営者は、CIOの代わりに相談に乗ってくれるコンサルタントを求め、IT化を推進してくれるITサービス会社を求めている。彼らに必要なのは、まさに経営課題を解決するITソリューションだ。しかし、ITサービス会社は「これからは中小企業市場の開拓だ」との掛け声のわりには、まともなソリューションを提供しないケースが多い。「コスト的にどうの、こうの」と言い訳しているようだが、そんなことだから「お前らがソリューションプロバイダなんて、ちゃんちゃらおかしい」と言われてしまうのだ。

 ところで、ITサービス会社から見て始末に負えないのは、顧客が「自分たちもソリューションプロバイダだ」との自覚が全くない情報システム部門の場合だ。丸投げをもって旨とし、単価引き下げが自分の仕事と思っているようなシステム部長に率いられると、もう最悪である。赤字プロジェクトの発生は必定。そんな場合はどうするのか。この手の“ソリューションプロバイダもどき”にはプロジェクトから外れてもらうように画策し、ユーザー企業の経営者やエンドユーザーに直接相対するのが一番だと思うが、いかがだろうか。