IT業界にソリューションを期待しても無理でしょう——。7人のCIO(最高情報責任者)のうち、実に3人までもが、こう言い放った。

 多くのITサービス会社は、ユーザー企業の課題をITで解決する「ソリューションプロバイダ」を標榜し、あるいは目指してきた。本誌もソリューション志向のビジネスを強く支持してきた。しかしITサービス会社が「ソリューション」として提案してきたものは、今回強烈な“赤点”を食らった。理由は「課題を解決できていない」からである。

 ITサービス会社がユーザー企業の課題解決を目指すこと自体は、もちろん、悪いことであるわけがない。CIOの発言は、ITサービス会社に対し、「では実効性のあるソリューションとは何なのか」という問題を提起している。



 ユーザー企業のIT戦略を担うCIO(最高情報責任者)が今、ソリューションプロバイダに求めているものは何か。

 日経ソリューションビジネスは毎年この時期に、有力ユーザー企業のCIOから忌憚ない意見を集めた特集「CIOの直言」をお届けしている。今年は4回目を迎えた。

 5月初旬から6月初めにかけて、7人のCIOへのインタビュー取材と、73社のCIOを対象としたアンケート取材を実施した。

 ソリューションプロバイダとの取引の見直しについて尋ねたところ、「継続的に取引してきたソリューションプロバイダとの関係を最近見直した/近く見直す」と答えたCIOは31.5%で、昨年よりやや減少した。

 また今回は、SEの需給がひっ迫し始めたことによる影響と、その対策について尋ねる設問を追加した。その結果、CIOの48%が「人材確保のためには多少のコスト上昇はやむを得ない」と考えていることが明らかになった。これに、「既に単価引き上げ要求に応じた」「単価を引き上げることで優秀な人材の確保を図っている」を加えた「容認派」の合計は、52%に上っている。逆に「引き上げを要求されたら、他の安い会社を探す」と回答した「強硬派」のCIOは、22%にとどまった。全体として、人月単価の引き上げについては寛容な姿勢といえるだろう。

 このようにアンケート調査では、ユーザーの厳しい姿勢に“軟化”の兆しが見えるが、CIOへのインタビューでは、ITサービス会社の「ソリューション」に対する厳しい意見が相次いだ。

「そんなのはソリューションではない」

 「そもそもIT業界に我々の問題の解決を期待すること、つまりソリューションを求めること自体に、無理があった」。こう明言するのは、ローソンの長谷川進常務執行役員CIOである。「問題解決屋です、と自称しているだけの存在に見える」という。

 システムはできる限り内製化する、という方針を取っている丸井の佐藤元彦取締役グループ経営企画部長も、ITサービス会社への過度の期待は禁物と考えている。「ITサービス会社にあまり期待すべきではない。単純な情報の提供といったところでは助かっているが、ソリューション提案というレベルでは、それを求めるのは到底無理」と手厳しい。

 また電子カルテへの取り組みなどで知られる医療法人鉄蕉会(亀田メディカルセンター)は、電子カルテをはじめ、診療にかかわるアプリケーションはすべて、自力で設計している。情報システム管理本部の伊東十三男本部長補佐は、「これらのアプリケーションは、いわば我々の業務そのもの。診療現場などで使いながら育てていくものなので、病院以外では開発できない」と断言する。

 なぜこれほどまでに、ITサービス会社のソリューション提案に対する期待値は下がり切ってしまったのか。

 丸井の佐藤取締役は、期待できない理由を「実務を知らない人に薦められても、受け入れられない。実際に業務をこなすのは我々なわけだから」と説明する。システム部門での経験が長い佐藤取締役は、過去に数々の「ソリューションプロバイダ」から売り込みを受け、評価してみたそうだ。だが「良かった試しがない」という。惨敗である。

ユーザーの土俵で戦うことの無駄

 しかし、惨敗するのは当たり前にも思える。ユーザーが、何年、何十年もかけて業務ノウハウを蓄積し、方法論を確立してきた分野で、ITサービス会社は無謀にも、「業務上の課題解決」を提案しようとしてきたのだ。

 亀田メディカルセンターの例を挙げよう。同院の医師は診察時に、電子カルテシステムの画面から、検査や処置などのオーダー(指示)を登録する。この時のメニュー画面は、最もよく使われるオーダー内容が、セットメニューになって、一番目立つところに表示されている。つまり、「何が一番多くオーダーされるか」という診察現場の実情を反映した画面構成になっているのである。

 こうした場面で、「こうすれば診療を効率化できます」などと、業務上の課題解決をうたうことに、そもそも無理があるのではないか。ここでITのプロが提供すべきソリューションがあるとしたら、診療現場における課題の直接の解決を狙ったものではなく、電子カルテを開発、管理するIT部門が抱える問題をターゲットにしたものになるだろう。その方が、はるかに実効性のある提案ができるからだ。

 逆説的な言い方だが、具体的にはプログラム開発や、インフラを安定稼働させるための各種のサポートサービス、IT関連製品の導入コンサルティングといった、ITサービス会社が確実に課題解決できる分野でこそ、実効性のあるソリューションが提供できるというもの。ユーザーの土俵でユーザーと戦うようなソリューション提案をしていたら、相手にされないのは当たり前である。

 実際、亀田メディカルセンターの伊東本部長補佐は「ITのプロに頼りたいのは、やはりインフラ技術」と指摘している。丸井の佐藤取締役も、ローソンの長谷川CIOも、業務上の問題については「畑違いの会社に、解決できるわけがない」とにべもないが、インフラ技術に関しては、ITサービス会社の提案に耳を傾けるはずだ。

ユーザー企業には必ず“弱点”がある

 CIOへの取材から、改めて分かったことがある。ユーザー企業には必ず、IT活用に関して決定的に足りない点があるということだ。それは、例えば新技術に関する情報収集力かもしれないし、ソフト開発力かもしれないし、運用リソースかもしれない。あるいはプロジェクト管理要員かもしれない。

 いわゆるIT先進企業であっても、ユーザーである以上、システムを開発・運用するための体制を、100%自前で用意できているということはあり得ない。どこが欠けているかは、ユーザー企業により様々である。だが、この“弱点”にこそ、確実に顧客の課題を解決するソリューション提案の大きなヒントがある。

 1つ確実に言えるのは、潤沢にIT要員を抱えるユーザー企業などまず存在しないということである。またアンケート調査の結果では、「今後のITプロジェクトの目的」の上位に、セキュリティ対策や日本版SOX法対策が入っている。いずれもIT部門にとっては喫緊の課題だが、手間がかかる上に付加価値が少ないために、モチベーションを維持しにくいという問題もある。こうした課題への対応のため、今、IT部門はかつてなく多忙である。

 ダイエーはわずか15人のシステム部員で、全店舗のPOS(販売時点情報管理)の全面刷新や情報インフラの入れ替えなど、10を超えるプロジェクトを同時に走らせている。さらには、急速に普及する電子マネーなど、消費者ニーズの動向に追随するために、最新技術に関する情報収集でも手は抜けない。

 ここ数年、社員数や売り上げが2ケタ増という急成長を続けているヤンセン ファーマですら、IT部門の要員は微増にとどまっている。だが、本業の医薬品開発を支えるシステムに加え、内部統制やセキュリティといった課題にも取り組まざるを得ない。ERP導入前後でIT要員を4割も減らしたというデンセイ・ラムダもまた然りだ。

 エンドユーザーをうならせるソリューションができれば素晴らしい。だが、ITのプロとしては、まずは疲弊するIT部門が抱える課題を確実に解決するというソリューション戦略が、今もっとも有望なのではないだろうか。