筆者がSEマネジャになりたての頃,部下は若手中心でSE戦力は弱体だった。

 そこで筆者は「SE戦力=量×質×組織力」という考えの下,SE一人ひとりの技術力の強化と仕事のやり方の改善に取り組んだ。またお互い困った時に助け合うチーム力の向上にも力を入れた。

 その甲斐あって悪戦苦闘しながらも段々とチームワークに富む技術力に強い自発的に行動する集団ができ始めた。そして年々戦力が充実し何とかビジネス目標が達成できた。だが,筆者は日頃バタバタしながらもどうしても「部下を一人でも多く,視野の広い・技術に強い・能動的なプロのSEに育てたい」という想いが頭から離れなかった。

部下のSEにもっといろいろな仕事を経験させたい

 振り返るとそれは,「SEはもっと技術を超えたSEにならないとダメだ。そうでないと顧客に頼りにされない。営業に使われるだけだ。今のSEのあり方を何とか変えたい。そして誇りを持って堂々と仕事をするSEを作りたい」という強い気持ちがあったからだと思う。もちろんそれがSE本人のためになり,かつ顧客はそんなSEを求めているという確信もあった。

 そのためには当ブログの5月11日のエントリで述べたように,部下の若手・中堅のSEにいろいろな仕事を経験をさせたかった。具体的には中小顧客担当の若手・中堅SEには大手顧客の経験,大手顧客担当のSEには中小顧客を,提案活動の経験がないSEには提案活動をやらせたかった。

 だが,それはそう簡単ではなかった。読者の方もご存知のように,顧客の状況やシステム,業務や人を熟知しているSEを代えると顧客に迷惑をかけかねないし,ビジネスにも悪影響を及ぼす恐れがあるからだった。事実「このSEを代えたい」と思っても顧客から「替えて貰ったら困る」と反対されたらと思うとなかなか言えなかった。また営業担当者の中には「○○SEを替えたら売れなくなる」などと反対する担当者もいた。

 そこで筆者は「お客様に迷惑をかけずにSEが育ちビジネスもできる,そうするためにはどうすればよいか」と悩み,葛藤した。部下や親しい顧客の人に筆者の悩みや考えをぶつけ意見を聞き討議もした。

顧客ではなく,仕事内容でアサインする

 その結果,次の様に考えた。「現在はSEを顧客別にアサインしている。そしてその顧客でのワークロードを考えて専任か他の顧客との兼任かを決めている。この考え方がまずい。そうではなく,発想を変えて顧客での仕事内容を考え,この仕事は○○SE,これは△△SE,あれは□□SEと,最初から役割別にSEをアサインする。そんなやり方に代えることが必要だ」と結論付けた。

 そして以下のような方針を打ち出した。

(1)できるだけ常駐などの専任アサインはしない。当時,部下の中には特定の顧客専任のSEが約6割いたが,それを最小限にする。
(2)SEは原則,複数の顧客や複数のプロジェクトを担当させる。
(3)その時のSEのアサインは得意分野や勉強させたい分野を考えて行う。
(4)顧客には中心となるSE(リーダー)を置き全体を仕切るとともに,顧客にとって最も重要な分野を担当する。そうすることにより自ずと他のSEの状況も把握できる。
(5)そして他の分野のSEサポートが必要な時は上記の考えで別のSEを担当させる。
(6)プロジェクトによってはサブリーダーも置く。

 この(1)~(6)を基本線とした。

 具体的に図で説明すると,従来のSE編成はA社の担当は馬場 B社は清水以下4人,高橋はC社とD社,小山はC社だったとする(図の左側)。それをA社は馬場を中心にOSに強い三澤と,B社は清水を中心に大手顧客をやらせたい馬場と小山を入れて6人に,田中にはD社の提案もやらせる。こんな編成方法である。

 この場合は複数顧客を担当してマルチで仕事をするSEは馬場,三澤,田中,小山の4人。この4人は従来の仕事をしながら上記(3)の考えで新しい仕事もする。抜けたところも上記(3)の考えの下に別のSEが行う。

 以上ざっと述べたが,要は各SEは基本的に複数の顧客に責任を持ってまわりのSEと,今で言うコラボレーションして仕事をするというやり方である。もちろんこれは原則でプロジェクトの状況や顧客の場所などによっては例外もある。

顧客にもメリットがある

 きっとこんなことを書くと読者の中には「無茶な。顧客がOKするの?」などと嘲笑する人もいると思う。ただ,SE時代から中小顧客から超大手顧客まで担当した筆者には,ある程度の実現可能性の読みがあった。また当初は苦労するだろが,これが軌道に乗ると,従来の顧客別SEアサインのやり方に比べ,多くのプラスがあるはずだとも読んでいた。

 まず顧客に対しては

(1)全体をリーダーが仕切り,分野分野で別のSEが担当するから,より質の高い支援ができる。
(2)担当SEが増えるので,トラブル時など緊急事態の対応力が増す。ちなみに図の例だとA社は1人から2人にB社は4人から6人に増える。またリーダーがシステムや業務や各SEの状況などを把握しているので,顧客には迷惑をかけない。

 次にSEにとっては

(1)SEの成長を考えたジョブアサインができる。
(2)スキルが早く身につく。1件の顧客を担当するより,2件担当した方が1.×倍の経験ができる。
(3)SEの交代が容易になる。
(4)ある顧客で恥をかいても,他の顧客で復活戦ができる。
(5)若手により挑戦的な仕事をさせることができる。
(6)先手・先手の仕事の仕方や,より能動的・自主的な仕事の仕方が身につく。マルチの世界では,下手をすると複数顧客の仕事がぶつかるからだ。

 以上色々と述べたが,これが筆者が狙った「ビジネスが伸びSEが育つSE集団作り」のイメージである。だが,当然そこには顧客からのSEの常駐要求,体制図提出要求との闘いと,専任アサインに馴れたSEをマルチジョブSEに変革させる挑戦があった。それらについては次回述べる。