以前,インド企業から,突然「開発から手を引く」というメールが届いた話をしました。このように不誠実なインド企業が,最初はとても優秀に見えました。それはなぜでしょうか。

 当時そのインド企業は日本のプロジェクトを受注するため最優秀の責任者を投入していました。その人材は米国プロジェクトでも成功を収めており、技術スキルが高く優れたコミュニケーション力も有しておりかつマネージメントもできる優れた人でした。

 彼が出てくれば,技術検討とプレゼンテーションの両面で日本側からよい評価を勝ちとりプロジェクト受注で有利な立場に立てることは明らかでした。

 また最初の打合せで,インド側は同プロジェクトで利用するオープン技術は自社内で実績があると説明していました。

 しかし後になって実際にそれを経験した技術者は既に退社していることがわかりました。そしてプロジェクト途中でインド側の責任者が交代しました。新しい責任者はそれまで米国などの研究テーマで多くの実績があるものの、同プロジェクトのようなQCD要求がシビアなプロジェクトでの実績はないこともわかりました。これらすべては最初の段階ではわからず、開発が進み問題が顕在化して調べてわかったことでした。私は最初の責任者がやりきってくれるものと期待していましたが、その期待は裏切られました。

 そのこと以来、私は最終的に誰が実際のソフト開発の仕事を進めるのかということに注意しています。

 交渉ごとに長けている海外企業は,自分に有利なことはアピールしますが、不利なことは言わない傾向があります。

 いつも本当のことをありのままに発言している日本人は、海外企業の人間が自分にとって有利なことだけを話しているにも関わらず、触れられていない隠れた部分があることに気がつきません。この思い違いで後で問題が発生することになります。

 私はインドの他に米国、中国、韓国などの企業ともやりとりしたことがありますが、彼らは自分にとって有利なことだけを主張し、不利なことには一切触れず、弱点を見せず、自分を強い立場において有利に交渉していました。そして、日本側が弱点も含めて真面目に本当のことを言ってしまうとその弱点ばかり攻めてくるので大変困ったことがあります。日本市場で信頼関係をベースに長くビジネスをやってきた日本企業の人々は本当のことを言ってしまい相手に読まれてまずい場合が多く見受けられます。

 最悪な事例の一つが、「予算はこれだけある。一つこれでよろしくお願いしたい」というような交渉でしょうか。

 以来私は海外企業の経営者や責任者からのプレゼンテーションがどのように優れても話半分としてとどめ、実績や技術があると表明した内容について必ずその裏を確認するようにしています。具体的な方策についてはまた別の機会にお話ししたいと思います。

 皆様、海外企業の方々は海千山千です。うまい話しがありましたら必ず裏を確認して落し穴に落ちないようご注意下さい。


緑の美しい南インド
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