前回,インド企業からの,開発から手を引きたいとのメールで慌ててインドに飛び直談判した話をご紹介しました。

 インド企業はなぜプロジェクトから手を引きたいと言ってきたのでしょうか。彼らの立場になって考えてみましょう。

 そのころ同社では欧米プロジェクト受注が急増しており,1プロジェクトが50人月~100人月,またはそれ以上という大きなプロジェクトも受注していました。日本から出す仕事量は以前は多かったものの事業変化に伴い半減していました。

 インド企業は,日本のそのプロジェクトより欧米の大型テーマの方が投資効果が大きいと判断して,リソースを振り替えたいと考えていたものと思います。当時同社の売上高と技術者数は年率30%以上急拡大していました。

 最初に「このプロジェクトから手を引きたい」との連絡を受けたとき,私は「儲かる方向なら何でもやるのか」と頭にきました。

 しかし後で冷静になって考えると,海外側もビジネス(金儲け)としてその開発受託を受けて実行しているわけですし,両社間の契約書にはプロジェクト中止時条件についてはあまり詳しく記載していないことに気がつきました。先方も悪いと思いましたが,基本的なことに気がつかずまた変化するIT市場にも留意しなかったこちらの方にも落ち度があると認識しました。

 またインド側がその問題が日本側にとってクリティカルであることの認識が欠けていたことも事実だと思います。日本側からのインプットも不足していました。しかし海外側にすべての情報をインプットすることは困難です。

 海外取引ではいろいろ予期しないことがおきる可能性が大きいので,私はうまくいっているときの対応にはそれほどの重点をおかず,いざというときサポートしてくれる企業や人材と付き合うよう心がけています。

 (まさかの友は真の友,A friend in need is a friend indeed)

 企業にはそれぞれの事業戦略と方針があり,P/L,B/S,キャッシュフロー状況などがバックにあります。実は私はそのインド企業の日本側からの経営管理に携わりおよそ3年ほど4半期ごとに現地の経営会議に出席し市場動向や業績などを打合せていました。

 そこには,インド人の経営者,インド国内の出資者,シンガポールの英国人投資家,そして日本人などが出席し,業績や事業方針などについて情報交換していたわけです。キングスイングリッシュやインド訛りの強い英語が飛び交い,投資家は利益重視,インド経営者は企業のビジョン重視で強く主張するので中に入ってやり取りするのに大変疲れたことを覚えています。

 ところで,「この開発から手を引きたい」という判断や行動はそのインド企業に限ったことではありません。中国企業とでも同様なことを経験しています。世界のどこでも,売上規模拡大や上場を狙う企業,規模より特定分野/技術を重視する企業,などいろいろな経営があり「先をみる海外アウトソーシング対応」をするには,それらをよく理解して対応しなくてはならないことを痛感しました。

 委託先の海外企業に仕事をきちっとやってもらうためには,海外側から見て日本取引にメリットがあることが基本になります。海外側から見てそのメリットが減少したりなくなった時,単に委託・依存しているだけの日本企業は壁に突き当たり落し穴に落ちることになります。

 皆様,どうぞくれぐれもご注意下さい。


人も荷物も車も混然として走っているインドのある道路(時には動物も)
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