前回、外国に特許出願する方式として、パリルート、PCTルートという二つのルートがあることが明らかにしたが、これらのルートによる利害得失について触れることにしよう。
パリルートによれば、日本でまず出願をして12ヶ月以内に所望の国に対して出願をすることになる。この際に、パリ条約上の「優先権」という権利を主張し、日本で出願した発明と同じであることを宣言すれば(具体的には優先権を適用すべき旨の主張とともに、日本における出願番号を特定する)、日本における出願日が外国において確保することができる。
これはどういうことかというと、日本における特許出願後にその発明を公開したり、発明品を販売したりした場合、通常であればその発明は「公知」であるとされ、外国において特許を受けることができなくなるのに対し、優先権主張をしていれば、外国においても日本の出願時を主張できるので、日本における特許出願後にその発明を公開等しても、外国において公知とみなされることはなく、特許を取得することが可能となるのである。パリ条約の制定時である1883年から施行され、利用されてきた方法である。
他方、1970年に発効したPCTルートによる特許出願は、PCT専用の特許出願フォームにて、日本国特許庁のPCT専用窓口に書類を提出することによって行い、PCT出願をした瞬間に、世界中の国に対して出願したのと同一の効果が生じる。ただし、30ヶ月以内に特許を取得したいと考える国の特許庁に、その国の言語・方式による特許出願をする必要があり、これを行わなかった国については出願しなかったものとみなされるのである。

さて、特許出願人がどの程度の地域的規模である発明を特許化するかどうかの判断は、その発明の価値に依存する。しかし、一般に発明の価値を評価することは非常に困難である。発明の価値は、その発明の特許性(特許を取得できるかどうか)のほかに、その発明にかかる技術市場の大きさ(市場性)による。PCT出願をすると、特許性の判断の一助となる調査報告書を取得できるので発明の価値を判断する上で便利である。市場性の評価は非常に難しいが、出願する国を選択する猶予期間が12ヶ月しかないパリルートに比べ、30ヶ月の猶予期間を与えられるPCTルートに軍配が上がる。他方、PCTルートは、調査込みの価格となっているのでパリルートによるよりも20-30万円程度の余分な費用がかかる、猶予期間が長い分、特許になるまでの期間も長くなるなどの不利益がある。
表1●パリルートとPCTルートとの利害得失 |
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従来のパリルートからPCTルートへと、国際特許出願の方法の切り替えが進んできた背景としては、多くの特許出願人がこれらの利害得失を判断した結果、コストよりも発明価値を評価するための時間を買うという意識に基づくものであると推測される。