先日のエントリ,「IBMの13年連続1位に思う」に対し,ある知り合いの読者から質問が寄せられました。本質を突いた重要な質問であり,このコーナーでその質問に回答してみたいと思います。

問.米国での特許はなぜ重要なのですか?

答.米国は他の地域と比べて極端に特許リスクが高い(世界一のマーケット国で損害賠償額・弁護士費用が高い)ことと,海外出願をするならば絶対にはずせない国なので公平な統計がとれる(日韓企業の特許力を評価するのに,日本・韓国の特許件数を比較してもホーム・アウェイなので公平な評価はできない)ということから,米国特許が大事だといわれています。

問.米国での特許取得件数を見ただけで,その企業の特許力の差,技術力の差が測れるものなのでしょうか?

答.もちろん,特許のみで完全に特許力・技術力が評価できるわけではありません。しかし,米国特許取得番付は,米国特許庁において審査されて特許として認定されたもののベストテンなので,特許力はある程度評価可能です。また,特許は世界初の技術でないととれないことから,特許力=技術力というのはある程度正しい関連性だと思います。技術力を簡便に評価することは,投資家や金融会社にとって悲願ともいわれる事項ですが,特許以外の方法で簡便かつ客観的に評価するのは極めて難しいのではないでしょうか。

問.トップ10に名前を連ねている企業はいわゆるIT企業や電気メーカー系ですが,業界によって特許の重要度も異なってくるだろうから(例えば,自動車メーカーはなぜ入ってこないの?など・・・),特許力の差はあくまで技術力の一指標であって,これだけで単純に比較できるものではないのだろうなと思うのですが・・・

答.IT・電気は,一つの製品に膨大な数の特許が組み込まれることと,技術が日進月歩で日々まったく新しいものが生み出されることから,必然的に特許件数が多くなります。これに対して,自動車は基本的な技術は既に19世紀に発明されたもの(エンジンや車体の基本原理など)なので,基本特許(一つの市場を支配するような広い権利を有する特許)や特許件数は比較的少ないと言われています。

 よって,トヨタ自動車と松下電器産業の特許件数を比較して,「松下電器産業の方がトヨタよりも技術力がある」という結論は意味がありません。(そもそも,業界が異なる企業同士の技術力を比較すること自体ナンセンスです)。ご指摘のとおり,業界・技術分野によって特許の重要性,必要とされる件数はまったく異なるのです。幸い,米国特許ベストテンのリストに載っているのは,日米韓含めほぼ電気業界のみなので先般のような論評が可能ですが,様々な業界の企業がランクインしていれば,論評は極めて難しいでしょう。

問.IBMが将来的にトップ10圏外になったとしても,そのことをもって企業競争力が低下したと単純に言えるものではないのでしょうね・・・

答.以上のとおりなので,IBMを電気業界の企業であると定義する限り「IBMがトップ10圏外になった=企業競争力が低下した」と言えると思います。最も,同社のメイン事業が特許とは関係の薄いシステムコンサルティング事業に移行していることを考えれば,「IBMが将来的にトップ10圏外になった=企業競争力が低下した」と単純に言えるものではないのでしょう。