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 米国特許取得ランキングが発表された。

「2005年の米国特許取得企業,首位は13年連続で米IBM」,USPTOの速報(ITpro)
http://itpro.nikkeibp.co.jp//article/USNEWS/20060111/227037/

 米IBM社は13年連続の1位。それも2位を1000件以上引き離してのダントツの1位を続けている。このようなIBM社の姿勢は何を示すのであろうか。

 米国特許ランキングに対する姿勢はIBM社内でも一枚岩ではないようである。それに要する膨大なコストは今のIBMにとって本当に投資すべき金額なのかという経営論と,そもそも特許は数だけの世界でないはずであるという特許の本質に立脚した議論など,ランキングにこだわる姿勢に批判的である者の論旨は想像に難くない。

 しかし,それでもIBM社は米国特許取得ランキング1位にこだわる。なぜなのだろうか。

 一説によると,IBM社が特許取得ランキングにこだわるのは,それが「いかなるPR方法よりも雄弁にIBM社の技術力が世界一であることをアピールできるため」だからであり,そのために負担する膨大なコスト(一件あたりの取得費用を100万円と考えても30億円のコストがかかっていることになる。間接コストを計上すればその数倍に上るであろう)は,単に特許を数多く取得するという効果以上に,同社のIRに対して重要な役割をになうという効果があるからだといわれる。

 また,別の側面からは,アジア勢に追い上げられて瀕死の状況にある米国の製造業界にとって,特許ランキング1位という座だけは決して日本企業に明け渡したくない,と考える米国政府がIBMという米国を代表する企業を擁立してタッグを組んで進めているプロジェクトであるともいわれている。

 確かに,米国特許取得件数リストで1位の座を占めることは簡単ではない。なぜならば,このリストは単なる出願件数ではなくて特許取得件数,つまり,特許庁による審査の結果,特許たり得べきと認められた件数のリストだからだ。

 特許は世界で最も最初にその技術を公開した者に与えられる技術独占権である。米国特許取得ランキング1位になるためには,そのような世界初の技術を誰よりも多く開発することができる洗練された研究開発体制と,そこで生まれた発明について漏らすことなく特許化を進めていく特許管理体制が必要なのであって,決して,どこかの国の長者番付のようにある年,泡銭を儲けて一躍1位に躍り出るという類のことは起こりえない。

 この意味で,IBM社が13年もの長い間,その間生じた企業環境や社会環境の変化にもかかわらず---ちなみに,その間,日本ではバブルが崩壊し,金融機関が凋落し,空白の10年の末にITバブルや知財立国が生じたのであるが--- 一日の如く米国特許ランキング1位を守り通したことは立派という他はない。まさに同社の研究開発力と特許管理力が世界一であるということを立証するに足る足跡であり,IRという観点から米国特許ランキング1位にこだわり続けた同社経営陣の姿勢はある意味では正しかったと評価できる。

 確かに,IBM社の研究開発力,特許管理力は素晴らしい。筆者も5年間,同社の日本法人(日本アイ・ビー・エム)において,研究開発成果の知財化に取り組んだ経験があるが,ニューヨーク州ヨークタウンの基礎研究所から出される研究成果は,まさにこれからの人類文明を作り出すことを予感させるようなレベルの技術で深い感銘を覚えたし,社内のノーベル賞受賞者と彼のノーベル賞発明の特許化についてe-mailでディカッションしたときは震える想いであった。同時に,各特許担当者に配布される分厚い特許管理マニュアルにすべての特許管理にかかる作業が理路整然と記載されているIBM社の特許管理の完成度は目を見張るものである。