大手映画スタジオはDVDなどのパッケージ・ビデオという商品形態の終焉が近いことを察知し,これまでデジタル映画ダウンロード・サービスが目立った成功を収めていないにもかかわらず,映画のダウンロード配信を競って受け入れ始めている。米Lionsgate,米Paramount Pictures,米20th Century Foxが11月29日(米国時間),米BitTorrentの技術を利用する合法的なオンライン動画配信サービスに2007年2月初めから加わると発表した(米Warner Bros.は参加済み)。映画スタジオのほかに,米Viacomのケーブル・ネットワーク事業部門MTV Networksなど複数のテレビ番組プロバイダも仲間入りする(関連記事:BitTorrent,映画/TV配信で21世紀Foxなどメディア大手各社と提携)。

 BitTorrentジェネラル・マネージャのEric Patterson氏は,「われわれは海賊行為の解決策を用意したうえで交渉に臨む」と述べる。「何百万人もの人々が,コンテンツの合法および非合法ダウンロードにBitTorrent技術を使っている。当社の実施した調査から,ダウンロード・ユーザーの30%はコンテンツに対価を支払うと見込む。(違法ダウンロードという)大問題を価値の高い販売チャネルに変えるよう,映画スタジオを支援していく」(Patterson氏)

 BitTorrentは,従来よりも効率的にインターネット経由で大量のデータを転送するファイル共有技術である。世界各地にある大量のパソコンに分けて保存し,そこからほかのパソコンにダウンロードできるようにするため,大きなサイズのファイルを小さな「子ファイル」に分割する。BitTorrentの仕組みは「分散ありき」なので,ユーザーは自動的にネットワーク上の最も近く最も高速な場所から子ファイルをダウンロードすることになり,ユーザーによらず高速なダウンロードが可能となる。

 現在のところ,テレビ番組や映画の映像データはファイル・サイズが大きいことから,消費者に魅力を訴えきれていない。しかし配信サービスを始めるコンテンツ企業は,ブロードバンド・インターネット接続とBitTorrentなどのネットワーク向け技術がかつてないほど普及したことで,見込み顧客の支配を望んでいる。デジタル技術を受け入れることから,映画スタジオは音楽業界の犯した過ちから学んだと分かる。音楽業界は,相変わらず攻撃的な反ダウンロード政策に固執している。最近の例だと,米Universal Music Group(UMG)は「米Microsoftがメディア・プレーヤ『Zune』1台ごとにライセンス料を支払わなければ,当社のコンテンツをZune向けサービスに提供しない」と主張した。UMGは,業界大手の米Apple Computerからも同様のライセンス料を徴収しようとしたらしい(関連記事:米Microsoft,音楽事業で不利な契約を米Universalと締結)。