米Microsoftは11月9日(米国時間)の午前中,フランスVivendi傘下の米Universal Music Group(UMG)と一風変わった契約を結んだと発表した。この契約からも,Microsoftが音楽プレーヤ「Zune」事業の立ち上げに必死であると分かる。MicrosoftはZuneを1台販売するたびUMGに1ドル支払い,UMGはオンライン・コンテンツ販売サービス「Zune Marketplace」で販売する楽曲のライセンスをMicrosoftに供与する。

 この契約には解せない部分がある。UMGは,既に収入の多くをオンライン音楽販売から確保している。それにUMGは,業界大手の米Apple Computerも含め,ほかのオンライン音楽サービスにもライセンスを供与している。そして間違いなくAppleは,「iPod」1台ごとに1ドルを払っていない。ただし,UMGがMicrosoftから受け取っているのと同様のロイヤルティをAppleから搾り取ろうとした可能性はある。

 Microsoftにとって,この契約は音楽業界が崩壊しかかっていることを示すものになるだろう。Microsoftが有利な契約を結べる立場になかったことや,以前デジタル音楽事業で失敗したこと,ホーム・ネットワーク仕様「PlaysForSure」の存在や,Zuneの独自展開という不確定要素を考え,UMGはプレーヤ販売に応じたロイヤルティを求めたのだ。The New York Times紙の記事によると,両社は「緊迫した交渉を数週間続けて」契約を結んだという。

 もしMicrosoftがロイヤルティ支払いを拒否していたら,Appleが「iTunes Store」で販売している楽曲のごく一部しかZune Marketplaceで提供できなかっただろう(UMGは世界音楽市場で3分の1のシェアを持っている)。この足かせがZuneにあったら,Zune自体が市場で失敗する時間的余裕も与えられず,早くにとどめを刺されていたはずだ。一方のAppleはデジタル音楽市場で支配的な位置にあるため,こうした契約を結ばずに済んでいる。この状態でUMGがiTunes Storeから撤退したら,AppleよりもUMGの方が大きな痛手を受ける。

 しかし,Microsoftの状況はさらに厳しくなる。「音楽業界のほかのパートナに対しても,UMGに支払うのと同様のロイヤルティを提供」すると発表したのだ。「当社は,Zuneのもとに結集してもらう必要がある。そして,より高いレベルの協業関係を作る」(Microsoftの世界マーケティング担当ジェネラル・マネージャ)

 ロイヤルティを要求したことに対するUMGの説明は,「当社は貪欲だ」と述べているのと変わりない。音楽業界の大物であるDavid Geffen氏はThe New York Times紙に「この種のプレーヤは,(コピーされた)未払いコンテンツの保存に利用されている」と語った。「つまり,消費者はコピー元のコンテンツに代金を支払い,レコード会社はコピーされた音楽を保存するプレーヤから収入を得る」(Geffen氏)。この記事のなかでGeffen氏が言及しているのは,不正に入手した楽曲ではなく,(恐らくは既に購入済みの)音楽CDからリッピングした楽曲についてである。米Jupitermediaの一部門であるJupiterResearchが先ごろ発表した調査結果によると,Appleが販売している楽曲の数はiPod 1台当たり20曲しかないという。iPodに保存されている残りの楽曲,つまり95%以上は,利用者が購入した音楽CDからリッピングしたものだ。

 もちろん音楽業界は,リッピングされた楽曲の相当数が,ほかの音楽ライブラリやオンライン・ファイル共有サービスを介して何らかの方法で盗まれたと確信している。この確信は,音楽業界が生まれながらに備える貪欲さと組み合わさり,現在の音楽業界が見せる特異な姿を際だたせることになっている。