調査内容 IT技術者のスキル・レベルに応じた人月単価(ITスペシャリスト編)
調査時期 2007年11月中旬~下旬
調査対象 ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者
有効回答 2268件(915件)
( )内は情報システム担当者の有効回答数

 日経マーケット・アクセスが,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に行っている月次アンケートでは,9月から12月までの4回にわたって,IT技術者の職種とスキル・レベルに見合う支払う妥当な対価,ユーザーから見て“値ごろ感がある”単価を調査している。9月調査での「コンサルタント」と「ITアーキテクト」職種,10月調査での「プロジェクトマネジメント」と「アプリケーションスペシャリスト」職種に続いて,11月調査ではITスキル標準(ITSS)が定義している職種のうち「ITスペシャリスト」の6専門分野について聞いた。

 その結果,6分野の中で最も高い人月単価が“値ごろ”とされたスキル・レベルは,「セキュリティ」のハイレベル(ITSSでのレベル5~7)と「分散コンピューティング」のハイレベルで,ともに平均約110万円。その他の4分野のハイレベル技術者も平均約104万~108万円で,分野の違いによる差は5.3万円と小さかった。

 ちなみに過去2回の調査では,「コンサルタント」のハイレベルが32.5万円差(業務改革の121.7万円~パッケージ適用の89.2万円),「ITアーキテクト」のハイレベルが6.3万円差(アプリケーションアーキテクチャーの103.1万円~インフラストラクチャアーキテクチャーの96.8万円),「プロジェクトマネジメント(PM)」のハイレベルが20.8万円差(システム開発の116.7万円~ITアウトソーシングの95.9万円),「アプリケーションスペシャリスト(AS)」のハイレベルが12.9万円差(業務システムの108.27万円~業務パッケージの95.3万円)だった。

 この結果,ITスペシャリストの6専門分野のハイレベル技術者に対する“妥当な,値ごろ感がある対価”の評価は,「ネットワークサービス」や「ITアウトソーシング」のPM,「業務パッケージ」のAS,「情報技術」や「パッケージ適用」のコンサルタント,それに全3専門分野のITアーキテクトのハイレベル技術者を上回った。

「ITアーキテクト」への評価が「ITスペシャリスト」を下回る

 特に9月調査での「ITアーキテクト」への評価が,技術面に特化した「ITスペシャリスト」よりもやや低いという点に注目したい。「顧客のビジネス戦略を実現するために情報システム全体の品質(整合性、一貫性等)を保ったITアーキテクチャを設計する」(経済産業省/ITスキル標準センター発行の「ITスキル標準V2 2006」より)という,「ITアーキテクト」の意義が明確に理解されていない(関連記事)ためだろうか。「ITアーキテクト」と「ITスペシャリスト」が,ともに専門分野の違いによる評価額の差が小さいというのも,「ITアーキテクト」と「ITスペシャリスト」の明確な違いが理解されていないことを示していそうだ。

 ただし,「ITアーキテクト」と「ITスペシャリスト」が回答者に混同されている,と断言しきれない点がある。図示していないが,今回の「ITスペシャリスト」の6専門分野への評価は,「全社の情報システム」を担当している回答者と,「全社システムは担当していない(部門または事業所またはワークグループのシステムだけを担当)」回答者の平均値が,3レベルともほぼ同じだった。これに対して,9月調査での「コンサルタント」と「ITアーキテクト」職種では5万~10万円程度,10月調査での「プロジェクトマネジメント」職種も2万~5万円程度,「全社システム担当者」の平均評価額が「全社以外の担当者」より低い。10月調査での「アプリケーションスペシャリスト」と今回の「ITスペシャリスト」は両者の評価がほぼ同額である。

 例えば,「ITアーキテクト」3分野のハイレベル技術者への平均評価額は,「全社以外の担当者」では約105万円~109万円で,今回の「ITスペシャリスト」6分野のハイレベルとほぼ同水準。しかし「全社システム担当者」の「ITアーキテクト」ハイレベルへの平均評価額は約92万~100万円と低かった。「全社システムの担当者は意図的に,ビジネス要件とITの橋渡しや,ITの全体最適化という役割を軽視しようとしている」,といっては言いすぎだろうか。

ITスペシャリストは「中級」「初級」も分野間の評価の差が小さい

 ITスペシャリストのミドルレベル(ITSSでのレベル3~4)技術者の評価も,ハイレベルと同じく分野の違いによる差が小さい(「分散コンピューティング」の81.5万円~「システム管理」の77.2万円)。ここに来ると,他の職種のミドルレベル技術者への評価とほとんど同レンジになる(ミドルレベルの中で「業務改革コンサルタント」約93万円と「システム開発PM」約86万円は例外的に高いが)。

 さらにITスペシャリストの「エントリレベル」(ITSSでのレベル1~2)も,分野の違いによる評価額の差は小さい(「分散コンピューティング」の62.1万円~「システム管理」の58.7万円)。エントリレベルは比較対象が前回10月調査での「業務システムAS」62.1万円と「業務パッケージAS」59.3万円しかなく,職種間の差は指摘できない。

■調査概要
 日経マーケット・アクセスが,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者に,各職種,スキル・レベルのIT技術者のサービスに支払う妥当な対価を「技術者のスキル・レベルに対して,ユーザーから見て“値ごろ感がある”単価」(最も近い価格帯を一択)という形で,選択式で回答を求めた。本文中の「平均人月単価」は、選択式回答の「月額40万円未満」を35万円,「40万円以上50万円未満」を45万円,「50万円以上60万円未満」を55万円,「60万円以上70万円未満」を65万円,「70万円以上80万円未満」を75万円,「80万円以上100万円未満」を90万円,「100万円以上125万円未満」を112.5万円,「125万円以上150万円未満」を137.5万円,「150万円以上200万円未満」を175万円,「200万円以上」を225万円に換算して平均した。
 調査実施時期は2007年11月中旬~下旬,調査全体の有効回答は2268件,「所属する企業・組織で自社の情報システムにかかわる業務(企画立案・設計・開発・運用・予算承認など)を担当している」とした実質的な有効回答は915件。

図●“値ごろ感がある”IT技術者の人月単価(その3:ITスペシャリスト)
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