日本の電子政府サイトのキーワード検索は,使い勝手が非常によくない。もう少しなんとかならないものだろうか。「電子政府の総合窓口(以下,e-Gov)」のキーワード検索を使ったことがある人にとっては「何を今さら」といった類の話かもしれないが,今回はあえて取り上げてみたい。

 というわけで早速,使い勝手の悪さを示す実例を2つほど紹介しよう。比較対象は,国内でよく使われている検索サイト,Yahoo! JAPANとGoogleである。

 まず最初にキーワードとして選んだのは「IT戦略本部」だ。日本の電子政府戦略を決定している「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)」のサイトを探してみようというわけだ。検索窓に「IT戦略本部」と入れてクリックすると,Yahoo! JAPANでもGoogleでも,一番最初にきちんとIT戦略本部のトップページが表示される。ところが「e-Gov」の検索窓だと,最初の画面(検索結果の上位10位)までに,このIT戦略本部のトップページは入ってこない(検索結果は次ページ参照)。

 次に「ねんきん特別便」というキーワードで調べてみた。Yahoo! JAPANでもGoogleでも社会保険庁の「ねんきん特別便」コーナーがきちんと最初に表示される。「ねんきん」部分を漢字にして「年金特別便」で検索しても大丈夫だ。ところが「e-Gov」で検索すると,「ねんきん特別便」「年金特別便」いずれのキーワードとも,やはり求めるページは上位10サイトには含まれていなかった(余談だが「ねんきん特別便」という重要案件の告知ページなのだがら,もっとスッキリしたURLにできないのだろうか? タイトルタグに付けるページタイトルも「社会保険庁:すべての年金受給者・加入者の方に「ねんきん特別便」をお届けします。」ではなく「社会保険庁:『ねんきん特別便』コーナー」としたほうが分かりやすいと思う)。

電子政府は「情報提供」にもっと力を入れるべき

 既に日本の多くのネット利用者は,普段からYahoo! JAPANやGoogleを使っている(関連記事)。ということは,この2つの民間サイトの検索機能と同等レベルでなければ,利用者は「e-Gov」で情報を検索することに大きなストレスを感じることになるだろう。

 もっとも,利用者からすれば「Yahoo! JAPANかGoogleを使って検索するから(eGovが使いにくくても)別にいいや」で済んでしまう話ではある。しかし,だからといって「e-Gov」の検索窓をこのまま放置しておいてよいとは思えない。電子政府はインターネットの特性を生かして,もっと積極的な情報提供をすべきだと思うからだ。

 「e-Gov」の検索機能は,ずっと使い勝手が悪いまま改善されて来なかった(もしかしたら改善されたのかもしれないか,だとしたら効果が上がっているとは言えない)。国から出てくる電子政府関連の話といえば,オンライン申請の話ばかりだ。2008年10月には,電子政府ガイドライン作成検討会が発足し,「ユーザビリティ分科会」の検討も始まった。ところがここで言う「ユーザビリティ」というのは,「電子政府の手続利用シナリオに応じたユーザビリティ」ということらしい。国は「すべての国民がITの恩恵を実感できる社会の実現」を目指しているようだが,「ITの恩恵=オンライン申請」ということなのだろうか?

 それは違うと私は思う。政府がきちんと検索しやすい形で情報をネットに公開してくれれば,国民がITの恩恵を受ける機会は確実に増えるはずだ。公開する情報の質・量(今回は論じない)と検索機能の向上は,使い勝手の良いオンライン申請に勝るとも劣らない「ITの恩恵」を国民にもたらしてくれるはずである。

 また,これからの政府サイトの運営には,民間の商用サイトと同等レベルのユーザビリティを目指すことが求められてくる。

 政府が構想する「次世代電子行政サービス」においては,SOA基盤による官民連携ワンストップポータルの構築が計画されている。ここでは単にデータが連携できれば良いというわけにはいかないだろう。民間のサイトとシームレスにつながるということは,政府のサイトにも民間並みの使い勝手の良さが求められることになるからだ。既に利用者から評価を得ている民間サイトに対して「ユーザビリティのレベルを政府に合わせてダウンさせろ」と言っても,誰も納得しないだろう。

 だからこそまずは手始めに,比較的容易に着手できると思われる「e-Gov」の検索機能について,民間で広く使われている検索サービスと同等レベルのユーザビリティを追及してはどうか,と思うのである。なお,誤解しないでほしいので付け加えると,もっと優秀な検索エンジンを採用すべきだということであって,政府が検索エンジンを開発すべきだと主張しているわけではない。