マイクロソフトは2008年10月14日,RIA(Rich Internet/Interactive Application)基盤ソフトSilverlightの新バージョン「Silverlight 2」の提供を開始した。アプリケーション開発ツール分野においてブランド力があるマイクロソフトが,アドビシステムズ(提供ソフトは「Adobe AIR」,以下同),カール(「Curl」),アクシスソフト(「Biz/Browser」)に加わることで,エンタープライズRIA(企業システム向けRIA)普及の兆しが見えてきた。

 Silverlightはブラウザのプラグインとして動作するRIA実行環境である。マイクロソフトは2007年9月に,Silverlightの最初のバージョン「Silverlight 1.0」をリリースしたが,これはエンタープライズRIAの基盤としては不十分なものだった。同社はSilverlight向けRIAの開発環境として,プログラマ向けツールの「Visual Studio」とデザイナ向けツールの「Expression Blend」を提供しているが,Silverlight 1.0ではプログラミング言語としてJavaScriptしか使えなかったからだ。

 Silverlight 2になって初めて,JavaScript以外のプログラミング言語としてC#,Visual Basic,IronRuby,IronPythonを利用できるようになった。さらに,GUI部品として使えるコントロール(ソフトウエア部品)も40種類提供する。11月上旬にはSilverlight 2によるRIA開発に対応したVisual Studio用アドオン「Silverlight Tools」を,引き続き11月中旬にはExpression Blend用のサービスパック(Service Pack 1)を提供する予定だ。

エンタープライズRIAでもユーザー・エクスペリエンスを実現

 マイクロソフトは,Windows Vistaを発表した際,ユーザー・インタフェース基盤技術「WPF(Windows Presentation Foundation)」が実現する「ユーザー・エクスペリエンス(UX)」を大きくアピールした。しかし,少なくとも企業向けシステムの分野では,Windows XPからのVistaへの移行がマイクロソフトの思惑通りには運ばなかったこともあり(関連記事:「新規に買うOSの人気No.1は,いまだにWindows XP」),ユーザー・エクスペリエンスを実現したアプリケーションは現時点ではほとんど見当たらない。

 Silverlightは基本的に,Windows Vistaに搭載されたWPFのサブセットとして開発されている。WPFとの最も大きな違いは,Windows以外の環境でも動作する「クロスプラットフォーム」性と,フルセットであるWPFより“軽い”ことである。今回,こうした特徴を備えたSilverlight 2が提供されたことで,エンタープライズRIAでもユーザー・エクスペリエンスを実現できる環境がようやく整ったと言える。

 ただし,企業向けRIAにおけるユーザー・エクスペリエンスのデザインについては,今後の課題になりそうだ。企業向けシステムにおいては,アプリケーションの表現力を向上させることだけでなく,当然ながら,それによって業務の生産性を向上させることが最終的な目的だからである。

 TDKラムダは,Silverlight 2のベータ版を使って,経営データなどを提供するBI(ビジネス・インテリジェント)を開発し,利用を開始している。同社はほかにもBIシステムを利用しているが,今回Silverlight 2ベースのBIシステムを開発する際に特に気をつけたのは「アクションが派手にならないこと」(同社管理本部グループマネージャの片寄直樹氏)だったという。「アクションが派手なアプリケーションは使われなくなるからだ」(同)。

 また開発時には,エンジニアとは別にデザイナが画面を設計・実装したが,デモをするたびに「お互いに思っていた動きと違う」(同)と感じて,すり合わせに苦労したという。ユーザー・エクスペリアンスを実現するツールというお膳立てがそろった今,ユーザー,エンジニア,デザイナの3者のコラボレーションが,これまでに増して重要になることは間違いない。