世界同時株安の影響を受け,2008年10月1日以降,東京株式市場の日経平均株価は急落,10日までに下げ幅は3000円を超えた。その後1000円ほど戻したものの予断を許さない状況だ(14日現在)。政府は10月下旬にも,追加となる緊急経済対策を具体化する方針。中小企業の資金繰り対策や設備投資減税,個人の所得税減税などが候補に挙がっている。対策の規模は2008年度補正予算案の1兆8000億円を上回る見通しだ。
短期的な景気対策はもちろん重要だが,この機会に,太陽光や風力などのグリーン電力への投資を加速すべきだ。すでに政策面での後押しは始まっている。政府は2008年6月に「新エネルギーモデル国家」構想を打ち出し,一次エネルギー国内供給量全体に対する再生可能エネルギー(太陽光や風力,バイオマスなどの自然循環の中で生まれるエネルギー)の比率を2020年度に8.2%,2030年度に11.1%にする目標を掲げた。
これを受けて8月末に固まった各省庁の2009年度予算の概算要求では,経済産業省が住宅用太陽光発電設備の導入促進事業として237億5000万円を要求したほか,環境省が太陽光発電設備の導入支援で19億5000万円,洋上風力発電技術開発事業で4億円,高濃度バイオ燃料実証事業で2億円を要求した。
より実質的なグリーン電力の導入政策としては,東京都が2009年4月から開始する住宅向けの太陽光利用設備の助成策が注目に値する。設備を導入した都民から10年分の環境価値(クレジット)を都が買い取ってグリーン電力証書化し,都が2010年に導入予定の排出量取引制度に参加する企業に売却することで,補助金の原資を確保するというスキームを作ったからだ。
家庭がクレジットを売り,企業が買う
東京都は,2025年に2000年比でCO2排出量25%削減という目標を達成するため,環境確保条例を改正して,約1300の大規模事業所に温室効果ガスの総量削減を義務づけた。対象となる事業者にはCO2の排出枠(キャップ)を設定し,排出枠の過不足分を企業間で取引できるようにするため,排出量取引制度の導入を決めた。興味深いのは,来春開始する個人住宅向けの太陽光利用設備の助成制度から生まれるクレジットを,この企業を対象とした排出量取引制度で流通させようとしていることだ。
都が実施する太陽光利用設備の助成制度の予算は90億円と,都道府県の中でも最大規模。標準的な住宅向け太陽光発電設備の出力は3kWほどで,設置費用は約200万円。都は1kW当たり10万円,最大30万円を補助する。太陽熱を利用した温水器なども対象で,1件あたり3万~20万円を補助する。
この助成制度によって設置された太陽光利用設備から生まれる電力のうち,都は自宅で消費した分をクレジットとして買い取る。都は第三者機関の認証を受けたうえで,これをグリーン電力証書として排出量取引に参加する企業などに販売する。つまり,家庭の発電設備から安定的に生み出されるクレジットを,企業が排出枠として購入し,購入代金を再び家庭の設備導入の補助金に充てるという仕組みにした。
都のスキームで注目すべき点は,まず,追加的な補助金の拠出を抑え,環境対策を低コストで実施する仕組みを作ったことだ。環境対策設備導入のインセンティブと,CO2排出削減の環境規制との連携を図り,自律的な制度運用を目指している。補助金(推定発電量で交付)とクレジットの発行量(実際の発電量で発行)とのギャップがどれくらいになるか,企業の排出枠需要がどれくらいになるかなど不確定要素は多いが,実績が上がれば他の自治体や国の制度への横展開も考えられる。
もう一つ,グリーン電力による温室効果ガス相殺効果を法的に位置づけたという点も注視すべきだろう。現在,省エネルギー法や地球温暖化対策推進法の枠組みでは,企業がグリーン電力証書を購入しても温室効果ガスの算定排出量を相殺したことにならない。間もなく試験運用が始まる国内の排出量取引制度においてもグリーン電力証書をどう扱うかは決まっていない。要するに,企業にグリーン電力を購入する実質的なメリットはこれまでなかった。
しかし今回,都がグリーン電力証書を都の排出量取引制度の対象としたことで活用の場が広がれば,グリーン電力の普及が加速することも考えられる。
エネルギー問題に“先送り”はない
英国では1件100万kW規模の洋上風力発電の開発プロジェクトが次々と動き出しており,今年末にもデンマークを抜いて世界最大の洋上風力発電量になる見込みだ。2020年までに全部で300万kW,原子力発電所3基分の発電量を風力でまかなう計画という。ドイツやフランス,米国カリフォルニア州なども大規模な再生可能エネルギー導入計画を進めている。
日本のエネルギー政策は資源エネルギー庁が一応のビジョンを描くものの,肝心の施策については太陽光が経産省と環境省,バイオマスが農林水産省といったように縦割りで,国としての総合的なエネルギー戦略を迅速に実施する体制にはほど遠い。2030年度の再生可能エネルギー導入比率11.1%という決して野心的でない数字も,このままでは目標のままで終わってしまうのではないか。
地球温暖化,燃料価格の高騰,エネルギー安全保障など,エネルギーを取り巻く課題は山積しており,有力な解決策の一つであるグリーン電力開発は先送りにできる話ではない。30~50年先の日本のエネルギー需給環境を見越し,いつ,どんな再生可能エネルギーの開発プロジェクトを,どれくらいの規模(投資額)で実施するかというタイムスケジュールを作成し,実行に移す時が来ている。