温室効果ガスや有害ガスの排出が少なく,環境への負荷が小さい自然エネルギーによって発電された電力,またはそれを選択して購入する仕組み。エネルギーとしての価値だけでなく,環境価値を併せ持つ。自然エネルギーは,再生可能エネルギーとほぼ同義語で使われ,太陽光や熱,風力,家畜糞尿や農産廃棄物などのバイオマス,ダム型ではない小規模水力,温泉や地中のマグマの熱を利用する地熱,海の潮汐や波など,自然循環の中で生まれるエネルギーを指す。

 グリーン電力は,自然エネルギーを広く普及させる狙いから,1990年代初頭の米国において,消費者運動を背景として生まれた。自然エネルギーによる電力は,大手の電力会社が供給する電力に比べて割高になる欠点がある。そこで電力の需要家(購入者)が,グリーン電力のエネルギーとしての価値に加え,環境価値部分を評価して追加料金を払うことで,市場競争力を高めるという仕組みが考案された。自然エネルギー100%の電力を選択できるグリーン料金制度やグリーン電力基金,グリーン電力証書取引などのプログラムがある。

 国内では,2001年にグリーン電力認証機構が設立され,第三者機関としてグリーン電力の認証を行っている。普及プログラムとしては,電力会社が運営している主に個人向けのグリーン電力基金のほか,主に企業向けのグリーン電力証書取引,市民団体による基金などがある。

 グリーン電力基金は,2000年10月から電力会社のサービスエリアごとに全国で一斉にスタートした。電力会社は賛同者から寄付(1口当たり月額500円,関西地域では100円)を募って月々の電気料金と一緒に徴収し,各地域の自然エネルギーの発電設備を助成する。個人が気軽に環境貢献できるとあって2004年3月のピーク時には全国で5万233口まで増えたが,その後は減少に転じ,2008年4月末には3万8310口になった。

 一方,企業向けのグリーン電力証書取引の方は,環境への取り組みに積極的な企業を中心に,自主的な温暖化防止対策の一つとして採用が進んでいる。購入企業の多くは,環境貢献を対外的にアピールする狙いがある。

 グリーン電力証書取引とは,グリーン電力の環境価値分を「証書化」し,グリーン電力の購入者(企業や個人など)に提供することで,証書に記載された電力相当分を自然エネルギー発電による(CO2を発生しない)電力として証明するというもの。一般的な取引の流れは図1のようになる。

図1●グリーン電力証書取引の仕組み
図1●グリーン電力証書取引の仕組み
自然エネルギーの発電事業者は,エネルギー価値分(電力)を電力会社に,環境価値分をグリーン電力取引(仲介)会社に,それぞれ売却する。企業などの需要家は,従来どおり電力会社などから電気の供給を受けて電気代を払うほか,取引(仲介)会社に環境価値分(購入電力量によって1kWh当たり数円~数十円)を支払う
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 自然エネルギーの発電事業者は,エネルギー価値分(電気)を電力会社に,環境価値分をグリーン電力取引(仲介)会社に,それぞれ売却する。企業などの需要家は,従来どおり電力会社などから電気を購入・使用する。それとは別に,取引(仲介)会社からグリーン電力証書を購入,これが環境価値分に相当する。

 取引(仲介)会社は,仲介したグリーン電力のCO2発生がゼロであるという環境価値について,第三者機関であるグリーン電力認証機構の認証を受けたうえで,グリーン電力証書を発行し,企業などの需要家に提供する。

 国内のグリーン電力取引は,2000年設立の仲介会社,日本自然エネルギーによる寡占となっており,2008年5月現在の契約者数は154社・団体,契約発電量は年間1億1803万kWhに達する。

 グリーン電力認証機構が現在までに認証した国内の自然エネルギー発電事業者の数は200を超えている。グリーン電力証書取引のベースとなる自然エネルギー発電事業を支えているのは,2003年4月から施行されているRPS(Renewables Portfolio Standard)制度。これは,電力会社に対して,毎年その販売電力量に応じた一定割合を,自然エネルギー(資源エネルギー庁の定める新エネルギー)による電力提供を義務付けるというもの。これによって電力会社は毎年,一定量の自然エネルギーを購入することになり,中小規模の自然エネルギー発電事業を支える。ただし,義務量の設定基準が低いため,グリーン電力の普及ペースが遅いと指摘する声も一部にある。