2008年3月13日に開催された「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」。会場での取材を終えて引き揚げてきた若手記者がこう言った。「すごいですね~,グリーンITの会場は。金の匂いがぷんぷんしましたよ」。真意を量りかねて筆者が問い返すと,「IT投資の決裁権を持っていそうな年輩のビジネスマンがわんさかいたってことです」──。

 なるほど,そういうことか。普段,この若手記者はWindows関連の新技術を中心に追いかけており,講演会や展示会で見かける来場者は比較的若い,開発現場の人が多いのだろう。それがこの日,グリーンITフォーラムの会場ではいつもと違った客層がひしめいていたものだから,冒頭のような印象を持ったわけだ。

 2007年,グリーンITはベンダー主導で始まった。インテル,AMD,IBM,シスコ,日立,NEC,富士通といったITベンダーが,省電力プロセッサやサーバーなどの製品を投入したり,データセンターの省電力プロジェクトを発表した。そして今年の2008年は,ベンダーの提案する省電力技術や製品が,単なる宣伝文句ではなく,本当にユーザーのシステムを“グリーンに”できるのかどうか,その「真価」が問われる年である。

 会場に立ちこめていた独特の“空気”の正体は,「ベンダーの実力を値踏みしてやろう」という,導入担当者の思惑が昇華したものだ。筆者も全部で5セッションの会場に足を運んだが,記者顔負けの緻密さでノートを取っている聴講者も見受けられた。グリーンITをどう咀嚼し,自社のシステムに取り込むかを見極めているかのようだった。

レガシー資産の刷新需要は根強い

 米国に端を発したサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅融資)の影響で国内でも株価が低迷し,ITの投資意欲が弱まるとの見方も一部に出始めている。だが,その一方で,「IT投資の需要そのものは,全般的に引き続き堅調」(調査会社のアナリスト)という声も多い。“ITリストラ”が喫緊の課題で,やらざるを得ない企業がそれだけ多いのである。

 日本企業の多くは,レガシーなIT資産を放置してきたツケが回り,運用コストなどの固定費用がかさんで,戦略的なIT投資に踏み込めないでいる。この状況を打破すべく,負債となったIT資産を一掃し,将来に向けたITインフラの再構築=ITリストラに着手しようという意欲は根強い。

 日経マーケット・アクセスが,2008年1月に,ITpro Researchモニターに登録している企業情報システム担当者を対象に行った調査で「2008年度の分野別のIT投資予想額」を聞いたところ,「基幹システム(自社開発での再構築)」の平均投資額が約5000万円と2位以下の各分野に1000万円近い大差を付けてトップ。昨年(2007年)6月に実施した,2007年のIT投資予想額を聞く調査でも,「基幹システム(自社開発での再構築)」への平均投資額が4469万円でトップだったが,この7カ月で約500万円も増えている(回答者数は今年1月の調査の方が400人近く多いが,回答者のプロフィールはほぼ同じ)。企業にとって基幹システムの刷新がいかに重要な課題であるかがわかる。

 今年1月の調査では,「基幹システム」関連,「内部統制」関連に続き,「ブレード・サーバー」(平均投資額1823万円),「サーバー仮想化」(1596万円),「ストレージ仮想化」(1652.5万円)といった,いわゆる“サーバー統合”関連分野が上位に食い込んでいる。特に「ブレード・サーバー」は,昨年6月の調査に比べ,平均投資額が約250万円アップした。製品の種類が多様化しつつある上,グリーンITの切り札として注目が集まっていることが伺える。

電力消費量はそのまま,性能は2~3倍に

 以上のIT投資動向を,やはり日経マーケット・アクセスが2008年2月に実施した「今後のシステム導入・更新・再構築の計画」についての調査と重ねて見ると,さらにおもしろいことがわかる。

 この調査では,「財務会計」,「販売・営業」,「業務統制・文書管理」など16種類の業務システム分野別に,「システム刷新後に必要となる処理性能(プロセッサ能力や主記憶容量)は,現行システムと比べて何倍程度か」を聞いた。その結果,システム刷新後に必要とする性能需要は,最小1.7倍(人事・給与)~最大2.9倍(経営戦略支援)だった。

 ところが,いずれの分野も,刷新後のサーバーの物理的な台数は,現行の1.1~1.3倍,消費電力は0.9~1.2倍,設置面積は0.8~1.2倍に収めたいとの回答だった。つまり,性能需要の増大を,サーバーのプロセッサ性能や主記憶容量の向上・増強などで実現し,サーバー台数はせいぜい1~2割増,消費電力は現状維持か微減,設置面積に至っては1~2割減らしたいと,多くの企業は考えているのである。

 ユーザー企業がサーバーの消費電力に厳しい眼を向けるのは,コスト(電気代)の削減はもちろんのこと,環境規制の強化も大きな理由になっている。

 経産省は2007年11月末,省エネルギー法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)の改正案を公表したが,規制対象をこれまでの事業所単位ではなく,事業者単位にすることになりそうだ。いわゆる大手企業はすべて規制の対象になり,オフィスなどの業務部門も含め,エネルギーの使用状況の報告と,削減計画の提出を義務付けられることになる。コンビニエンスストアなど新たに規制の対象となる業種も増えた。この改正省エネ法は,2009年にも施行される予定だ。

3月13日に開催された「ITproグリーンITフォーラム2008 Spring」の会場では,省電力システムの導入に意欲的な聴講者が,熱心に講演に聞き入っていた。