「Citrixがオープンソース仮想化ソフトのXenSourceを買収へ」(8月16日)
「Cisco,1億5000万ドルを出資しVMwareに資本参加」(7月30日)
「EMCの2007年Q2決算は増収増益,VMware事業が89%成長」(7月25日)
「Intel,2億ドル超をVMwareに出資」(7月10日)

*各ニュースの詳細は仮想化サイトのニュース欄(記事一覧)を参照してください。

 これらは,最近1カ月ほどのITproのニュースの中から,サーバー仮想化技術に関する業界動向の記事をピックアップしたものだ。タイトルを眺めるだけでも,IAサーバー向けの仮想化技術が,いま最も注目を集めている話題の1つだということが分かるだろう。IT業界の有力ベンダーがサーバー仮想化技術にラブ・コールを送り,サーバー仮想化ソフトの最大手である米VMwareも高成長を示している。仮想化技術が,次世代の情報システムのコア技術になると期待されていることの証しである。

 実際のユーザー企業の動向を見ても,適用例は着実に増えている。基幹系システムへの適用は今一歩としても,仮想化技術の成熟度が一層高まったことで,部門システムやシステム開発環境のプラットフォームとしてはよく利用されるようになった。あるユーザー企業の例では,約50の部門システムなどを仮想サーバー環境に集約し,TCOを30~40%削減する成果を上げている。

 このように普及期を迎えつつある仮想化技術だが,多くの先行事例からは学ぶべき点も多いようだ。サーバーのサイジングや信頼性の確保といった技術的な側面での注意点もさることながら,「仮想化技術の導入に目を奪われて,仮想化と表裏一体となった“別の問題”に関する検討がおろそかになるケースが多い」(仮想化ソリューションを手掛けるエス・アンド・アイの伊藤英啓氏)というのだ。

 “別の問題”にはいくつかの典型例があるが,ここでは仮想化技術を利用したレガシー・マイグレーションに伴う問題を紹介したい。なお,ここで言うレガシー・マイグレーションとは,メインフレーム上のシステムをオープン系サーバー上に再構築することではない。Windows NTなどの古いOSをベースにしたIAサーバー上の「レガシー・システム」を,最新のハードウエア環境にポーティングすることと考えてほしい。

ブラックボックス化したシステムを仮想化すべきか?

 仮想化技術に興味がある方には周知のことと思うが,IAサーバー上のレガシー・システムに今起こっている課題は,古いOSをサポートするサーバー・マシンが販売終了しており,周辺機器の大半についても古いOS用のデバイス・ドライバが提供されていないことだ。この状況でハードウエアが故障したらどうなるか。それを実体験した,あるユーザー企業のシステム部長は,「代替ハードウエアを用意し,システムを修正・復旧するまでに,非常に長い時間がかかってしまった」と語る。

 サーバー仮想化が注目されている理由の1つは,この類のトラブルを解消できることにある。仮想化技術は,ハードウエアの物理構成によらず,OSの種類やバージョンにマッチした「仮想マシン」を提供できる。そこに,古いOSごとシステムを「そっくりそのまま」ポーティングすれば,最新のハードウエアが利用できるようになる。複数のレガシー・システムを1台のサーバーに統合すれば,サーバーの効率利用,コスト削減にもつながる(あらゆるレガシー・システムを簡単に仮想化できるわけではないが,技術的な問題については別の機会に譲る)。

 こうしたレガシー・マイグレーションでユーザー企業が見過ごしやすい問題とは,仮想化対象となるシステムの多くが「ブラックボックス化」していることに起因している。前述したように,現在は部門システムなどを仮想化するケースが中心だ。部門システムは仕様や運用方法が標準化されておらず,属人化も進んでいる。

 ブラックボックス化したシステムは,「何かトラブルが起こった時に対応が難しい」とか「システムを修正しようとする場合に多大な工数がかかる」「システムの保守に人手を取られて,新規開発が思うようにできない」などの大きな問題を抱えている。記者は以前,『再び塩漬けされる,システム内の「ブラックボックス」』という記事の中で,レガシー・マイグレーションはシステム内の「ブラックボックス」を見える化する好機であると書いた。しかし,メインフレームのCOBOLアプリケーションを,そのままオープン系サーバーに移植する自動変換ツールの存在などが,ブラックボックスを放置する誘因となりやすい。各企業のさまざまな事情があってブラックボックスを塩漬けにしているのだろうが,長い目で見れば必要以上に高いコストを払い続けることになる。

 仮想化技術を利用したレガシー・マイグレーションで懸念されるのは,上記の例と比べて,はるかに高い頻度で「ブラックボックスの放置」が生じやすいことだ。なにしろ,サーバー仮想化ソフトの移行ツールを使うと,ディスク・イメージをコピーするような感覚でレガシー・マイグレーションができることが多い。この容易さに目を奪われ,「当該システムを本当に仮想化すべきかどうか」という検討をおろそかにすると,結果的に高い代償を払う羽目になりかねない。将来にシステムを再構築するなどの見通しを持って仮想化するなら問題ないが,全く検討なしで仮想化するようではまずい。

 システムを仮想化すること自体は難しくないかもしれないが,それが常に正しい選択とは限らない。どんな技術にも共通して言えることではあるが,仮想化できちんと成果を得るにはユーザー企業側の周到な計画・検討が不可欠だ。そのようなユーザー企業の情報ニーズにこたえられるように,9月からITproの「仮想化サイト」でコンテンツを拡充していく予定である。また,仮想化技術専門セミナーの「仮想化最前線」も開催するので,ぜひ参考にして頂きたい。