『日経情報ストラテジー』8月号(6月24日発売)で,「SOA(サービス指向アーキテクチャー)は本当に使えるか?」という特集記事を執筆した。

 ITproに掲載しているSOAに関する記事に寄せられた読者の皆様からのコメントを読むと,ユーザー企業の間で,SOAという新しい「3文字略語」に対する警戒感が広がっていることが分かる。

 今回,多くの企業のCIO(最高情報責任者)や情報システム部門長らに話を聞いたが,SOA自体を否定する声はほとんど聞かれなかった。しかし,考え方としての有用性には理解を示しつつも,実際の適用については様々な疑念を持っているようだった。「少し前はEA(エンタープライズ・アーキテクチャー)という言葉がはやったが,最近はあまり聞かなくなった。一方で,今は何でもかんでもSOAと言われすぎている」(大成建設の木内里美・理事社長室情報企画部長)という意見が代表的だ。

「オープン」なはずのSOAがベンダーの囲い込み手段に

 SOAは,XMLやSOAP,BPELなどの標準規格をベースにしており,ITベンダー固有のプラットフォームに依存せずに動作するという触れ込みだ。しかし,実際にはそうはなっていないという見方が多かった。「現状のSOAは標準化が不十分で,『ベンダーA社のSOA』『ベンダーB社のSOA』になっている。SOAが本格的に普及すれば『囲い込み』の構造が崩れるはずだが,ベンダーにとって,囲い込みが前提のビジネス構造をすぐに変えるのは難しいだろう」(木内部長)。

 実際にSOAを採用した新システムを立ち上げている企業では,SOAのサービス(部品)を稼働させる複数のサーバーと,それを結ぶミドルウエアであるESB(エンタープライズ・サービス・バス)などの間で,ベンダーを統一している例が多かった。

 そのうち1社のシステム部長は,「SOA関連技術は未成熟なので,各ベンダーの製品を評価して個別に選択できる状況になかった。ベンダーのサポート体制なども考えると,シングルベンダーで統一したほうが得策だと考えた」と話していた。現時点では,複数のサービスを組み合わせることはできても,プラットフォームが異なるシステムを組み合わせることによるメリットは享受しにくい状況にあるようだ。それでも,「顧客企業からの要望に応じてその都度システムを拡張し,運用・保守の負荷が膨大になっていた状況があり,SOAは有力な解決策だった」という。

従来の部品化の考え方と何が違うのか

 もう1つ多く聞かれた意見は,SOAは従来の「オブジェクト指向」「モジュール化」といった考え方と何が違うのかというもの。スタッフサービス・ホールディングスのCIOに当たる佐藤治夫取締役は,「従来の『オブジェクト指向』『CORBA』といった考え方は供給者側の言葉だった。SOAは『サービス』という利用者側の言葉になっている点では評価できる。しかし,それ以上の本質的な違いは感じない」と話す。

 スタッフサービスは,「派遣先企業」と「派遣スタッフ」の情報をシステムで管理している。現行のシステムを構築した当時は,派遣スタッフは一時的な人材という位置付けだったが,今では,1人の派遣スタッフが長期間にわたって複数の派遣先で勤務することも多い。同社はこれに対応して,派遣スタッフの情報を継続的に管理する機能を強化したシステム再構築を計画している。「当社にとっては大きな構造変化。このレベルの変化になると,SOAを取り入れたからといって対応できるとは思えない。結局システムを作り直すしかない」(佐藤取締役)という。

 SOAはよく「全体最適」「柔軟性」「変化対応」といった効果と結び付けて語られる。SOAの概念や要素技術そのものは,こうした効果につながる可能性を秘めている。だが,実際に導入するとなると,現時点では制約条件が多いようだ。