前回の「果たして今、基幹系システムを再構築すべきか」に対して200人を超す方からご意見をいただきました。いずれも大変参考になるご意見でした。ありがとうございました。

 「果たして今、基幹系システムを再構築すべきか」では、実際に読者の皆さんに基幹系システムを再構築すべきかどうかを尋ねました。これに対して、68.1%の方が、「基幹系システムの再構築を進めるべきだ」と回答されています。「再構築を進めるべきではない」は、わずか8.4%に過ぎません。基幹系システムの再構築は大きな困難が伴うことが珍しくありませんが、それでも今、基幹系を再構築すべきというのが、読者の皆さんの多数意見のようです。

基幹系システムの再構築の動向を取り上げている日経コンピュータは、こちらのページからお求めいただけます。よろしければご覧ください。

老朽化した基幹系にはリスクが伴う

 再構築すべきという意見が多いのは、やはり現在の基幹系システムに見逃せない問題があるからです。

 偶然、このフォーラムをお読みのシステム部門の方に会う機会がありましたが、その方も再構築を進めるべきだ、とのご意見でした。その理由は「何年も同じシステムを利用しているうちに、細かな保守が重なっていく。保守を重ねることでシステム全体の保守性がどんどん悪化してしまう。そもそもドキュメントも満足に残っていない。こうした状態で基幹系を運用し続けるのは無理だ」ということだそうです。

 実際に老朽化した基幹系システムのリスクを感じる出来事もありました。日経コンピュータ2006年11月27日号の「動かないコンピュータ」で取り上げた、システムの処理能力不足が原因で起きたソフトバンクモバイルの携帯番号ポータビリティの申し込み受付停止の事例がそうです。

 ソフトバンクモバイルは、携帯番号ポータビリティのサービス開始に必要なシステムの一部を、基幹系システムに追加する形で開発したのですが、サーバーの処理能力不足を顕在化させてしまいました。ソフトバンクモバイルが現在利用している基幹系システムは、旧ボーダフォン日本法人の時代から利用しているもので、J-フォンの時代に開発されたものです。

 同社幹部のおっしゃっていた、「開発当時の状況を知る人間はほとんど残っていない。アーキテクチャが古くなっているのも事実」という言葉が耳に残っています。メインフレームを使ったシステムではないのですが、ハードはすでに開発停止が決まっているAlphaServerです。数年先を見据えればハードの更新も難しくなります。

 前回のフォーラムでは、いわゆる団塊の世代を中心としたベテラン技術者が引退することで、システムや業務に大きな影響をもたらす「2007年問題」が、基幹系システムの再構築に影響することに触れました。この点に関しては、基幹系システムの再構築には賛成の立場であっても、安易な2007年問題原因論には異論を唱えられるご意見を何件かいただきました。そのうちの1件を紹介します。



 導入がすべてではなく始まりである。確かに莫大な費用がかかりがちではあるが小規模な範囲(ただし業務機能は一通り受注から出荷請求財務会計とそろっている範囲)で導入しERP導入がどういうものか、ユーザーとして何をするべきか(決めるべきか)十分なトライアル期間を取るべきである。いきなり勝負に出ては勝算は少ないと思う。

 海外に工場を作るときも同様ではないか。経験のある人材不足はいかんともしがたいし、2007年問題と言っても本当に力のある団塊の世代は何人いるのか。外部の進んだ情報に対応できる人材はもっと少ない。であれば30歳代を中心に、新規に小さく成功体験を積ませるような人材育成を組織として行うべきである。

 製造部門もそうしてきたはずだ。そのような人材が、基幹システムだけではなく、サプライチェーンの変化に迅速な対応ができるITを使いこなせる人たちになるであろう。

(基幹システム導入支援コンサルタント)

基幹系の再構築は一筋縄ではいかない

 実際に基幹系システムを再構築しようとすれば、様々な問題が起きるのは当然のことかもしれません。以下のご意見は、こういった点についてのご指摘です。



 再構築は多数の機能を一度に運用に乗せる必要があり、新規開発よりもリスクが大きい。また、オリジナル・システムを開発した技術者や利用者が既にいなくなっていることもリスクの大きな要因である。従って、新規開発よりも動かないコンピュータになる可能性が高い。
(ユーザーでシステム開発・運用に関係する)

 「オリジナル・システムを開発した技術者や利用者が既にいなくなっていること」は大きな問題ですが、単に人がいなくなっているだけではなく、さらに大きな問題があります。



 私は、会計システムの開発・保守・運用をやってきた経緯があるのですが、私が担当していたのは、おそらく3代目の経理システムでした。現状のシステム運用ですらままならないのに、3世代前のシステムに関するドキュメントなどあるはずもなく、単なる「お引越し」と追加要件の連続で、本来のシステム要件はどんどんブラックボックス化していました。ユーザーも世代交代が激しく、システム利用が前提の業務を長く続けていたため、そもそもの業務のあり方を規定できる人材がどこにもいません。以前「引き継ぎ問題」として問題提起されたものが、基幹システムの再構築には顕著に現れてきます。基幹業務システムですから、1世代当たりのシステム・ライフサイクルは“10年選手”です。「ああ、2007年問題か」と思わせるのに十分な内容ですね。景気回復などといっても、まだまだ根本から業務を見直すための体力が、ユーザーにもITコンサルタントにもSIerに無いのです。
(システム開発ベンダーに勤務している)