以前,WBC(World Baseball Classic)でのイチローの興奮(豹変?)ぶりと対比しながら,ITエンジニアにとってのモチベーションについて書いた(記者のつぶやき「WBC優勝で見せたイチローの興奮に思う」)。これを見た読者からは,「モチベーションを高めるには,やりがい,達成感,チームワークを重視すべきだということは以前から言われていたこと」,「国旗を背負ったスポーツを,仕事と同列に論じることはできない」といったご意見を頂戴した。

 前者については,確かにご指摘の通りである。ただ,以前から言われていたことを,WBCでのイチローほどはっきりと誰にも分かる形で表現し,しかも成果に結びつけた例は珍しい,と筆者は考えたい。

 また後者については,一種のナショナリズムによる高揚感がモチベーションにプラスαをもたらしたことは否定できないだろう。しかし,それ以上に,能力的にも意識的にも高い水準にあるメンバーたちと一緒に強いチームを作り上げたことに,イチローは心から達成感を感じたのではないか。その点では,ITエンジニア(あるいは社会人一般)の日々の仕事におけるモチベーションに通じる部分も少なくないと思う。

 ・・・と,こんな調子で,また延々とイチローについて書いてしまいそうだが,今回はここで止めておく。実は,冒頭の一文で触れたITエンジニアの意識・実態調査について,その結果をご報告する準備がようやく整った。そのうちいくつかを,この場を借りてご紹介したいと思う。

仕事そのものや顧客の喜びに“やりがい”

図1●年齢層ごとに見た満足点(優先度1位の各回答の比率)
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図2●年齢層ごとに見た不満点(優先度1位の各回答の比率)
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 この調査は,経済産業省から委託を受けて,日経BP社などが主宰するITスキル研究フォーラム(iSRF)が,昨年12月から今年2月にかけてWebサイトで実施したもの。回答者はIT業界や一般企業で働くITエンジニアで,有効回答数は1393人(平均年齢は35.0歳)。5歳刻みの年齢層で見ると,最も多かったのは31~35歳(25.9%)で,26~30歳(23.8%),36~40歳(21.5%)と続いた。

 まず,ITエンジニアのモチベーションにかかわる調査結果から。回答者がIT業界で仕事をしていて「良いと思うこと(満足点)」と「良くないと思うこと(不満点)」を,優先度の高いものから,それぞれ3つずつ選んでもらった。

 その結果を,年齢層ごとに見たものが図1と図2,職種ごとに見たものが図3と図4である。数字は,各選択肢を「優先度1位」に選んだ回答者の比率を示している。IT業界で働くエンジニアの意識や現状を把握することを目的とした質問だが,読者には現在の自分だけでなく,現在から数年後の自分,あるいは,将来目指している職種に就いたときの自分に当てはめて見ていただきたい。

 まず年齢層ごとの調査結果を見ていこう。

 満足点については,どの年齢層においても「やりがい」にかかわる2つの選択肢,すなわち「仕事そのものにやりがいを感じる」と「顧客に喜ばれたときにやりがいを感じる」の比率が極めて高い。ただし両者は,年齢層によって傾向がはっきり異なる。回答数が少ない51歳以上の年齢層を除くと,前者(仕事そのものにやりがい)は,25歳以下,26~30歳という若手エンジニアの比率が特に高い(それぞれ34.3%,37.7%)。これに対して,後者(顧客に喜ばれたときにやりがい)は,年齢層が高いほど比率が高くなっている。

 興味深いのは「プロジェクトなどのマネジメントがうまくいったときに喜びを感じる」という回答だ。単純に年齢層が高いほど比率も高いというわけではなく,比率の高い年齢層が,31~35歳,41~45歳,51歳以上と,“とびとび”になっている。これは,プロジェクト内のチーム,プロジェクト全体,複数のプロジェクトをまたぐ事業,という具合に,マネジメントのレベルが高くなるごとに,それを達成したときの喜びも大きくなる,と解釈できそうだ。

 このほか「技術革新のテンポが速く,刺激を感じる」を挙げた回答者が,低い年齢層と高い年齢層に2極化していることも面白い。また「収入が良い」を優先度1位に挙げた回答者は,どの年齢層も1桁にとどまったが,特に41歳以上の年齢層では1~2%台にとどまる。収入は満足感の有無だけでは片付けられない問題だけに,読者の皆さんがこの結果をどう見るか,ぜひご意見を聞いてみたいところだ。

図3●職種ごとに見た満足点(優先度1位の各回答の比率)
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図4●職種ごとに見た不満点(優先度1位の各回答の比率)
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 一方,不満点については,「仕事が忙しすぎて,自由な時間を確保できない」,「仕事のプレッシャーが厳しく,ストレスがたまる」,「収入が良くない」の3つが総じて高かった。最初の2つは一見,性格が似ている選択肢だと思われるかもしれないが,実は年齢層によって傾向が大きく異なる。

 「仕事が忙しすぎて,自由な時間を確保できない」は,特に25歳以下が突出して高く(38.4%),26~30歳も30%を超えている。一方,「仕事のプレッシャーが厳しく,ストレスがたまる」は,30歳以下の2つの年齢層では2割未満と低く,31~35歳からは年齢層とともに高くなり,46~50歳でピークを迎える。

 前述したように,満足点の調査では年齢層が高いほど,「顧客に喜ばれたときにやりがい」と「プロジェクトなどのマネジメントがうまくいったときに喜び」を挙げる回答者の比率が高かった。これらのやりがいは,重要な顧客から困難なプロジェクトを託されるプレッシャーの大きさと裏腹の関係にあることがよく分かる。

 「収入が良くない」の比率は,どの年齢層も10%台あるいは1桁台と,それほど高くなかった。ただし,比率が低いとはいえ,これらは優先度1位の不満点として挙げられた回答である。特に31~35歳以下の年齢層では,ほぼ6人に1人が切実な問題だと認識していることが分かる。

 職種ごとに見た満足点と不満点についても簡単に触れておこう。満足点(前出の図3)では,「仕事そのものにやりがい」はソフトウェアデベロップメントの比率が46.8%と突出して高い。一方,「顧客に喜ばれることにやりがい」は,セールスが45.5%と最も高く,カスタマサービス,コンサルタント,ITアーキテクト,アプリケーションスペシャリストといった,顧客との接点が多い職種の比率が総じて高かった。この2つの選択肢については,同じ上流工程の職種でもマーケティングとセールスは傾向が正反対であり,職種特性の違いがはっきり出た。

 一方,不満点(前出の図4)では,「仕事が忙しすぎて,自由な時間を確保できない」の比率が高い職種と,「仕事のプレッシャーが厳しく,ストレスがたまる」の比率が高い職種が明確に分かれた。前者が高いのは,ソフトウェアデベロップメント,カスタマサービス,プロジェクトマネジメント,ITアーキテクト。これに対して後者が高いのは,品質保証やオペレーションといった,システムの不具合やトラブルを防ぐ最後の砦(とりで)となる職種で,プロジェクトマネジメントは26.8%と思いのほか高くなかった。プロジェクトマネジメントの多くは,業務を遂行するうえで大きなプレッシャーがかかることは当然だと受け止めているのかもしれない。