「もう最高!信じられない」。「みんなすごい。本当にいいチームだった」。「これまでの野球人生で味わったことのない気持ち」。

 野球の世界ナンバー・ワンを決めるWBC(World Baseball Classic)で日本チームが優勝を決めた後,インタビューに答えるイチローは,いつも以上に甲高い声でまくし立てていた。朝からテレビにかじりついていた記者も,その様子を見ながら,現地の球場にいるような興奮を味わった。

 WBCへの参加が決まって以来,クールな印象の普段とは別人のように,イチローは大会にかける熱い思いを前面に出してきた。キャンプの練習でのハッスルぶり,チームを鼓舞し続ける言動,2次リーグで韓国に負けた後の打ち砕かれたような表情,そして優勝後に爆発させた喜び。

 度肝を抜くプレイに魅せられて,その活躍を長年見続けてきた記者も,イチローのこんな姿は見たことがない。ファンの多くも同じことを感じたようだ。

 イチローはメジャーリーグでも,既に“超”が付くスーパースターである。2004年には史上最多の安打記録を打ち立てた。年俸も軽く10億円を超えている。そのイチローが,なぜここまで熱くなったのだろうか。

 答えは本人に聞かないと分からないが,おそらくイチローは,この大会に参加し,勝つことに,それほど大きなやりがいを見つけたのだと思う。

 わずか1カ月という短期間ながら,自分と同じように高い能力と志を持った選手たちと強いチームを築き上げ,世界のライバルに勝つこと。それは,5年もメジャーにいてワールドシリーズ優勝の喜びを一度も経験したことのないイチローにとって,心からやりがいを感じることだったに違いない。

 結局,人が何かに取り組む時の最大のモチベーションは,やりがいなのかもしれない。それは,ITproが情報をお届けしているIT業界の方々も同じではないだろうか。

 そう考えたのは,記者がここ何カ月か携わっているITエンジニアの意識・実態調査で,モチベーションにかかわる興味深い結果が得られたからだ。「IT業界で仕事をして良かったと思うことや,満足していることは何か」という問いに対し,「仕事そのもののやりがい」や「顧客に喜ばれることのやりがい」を挙げた回答者が圧倒的に多かったのである。

 高収入の人だけを対象にした結果を見ても,「収入の良さ」より「やりがい」を挙げた回答者の方がはるかに多かった。このことは,ITエンジニア自身にとってのキャリア設計や,IT企業における人材育成策を考えるうえで,とても重要な意味を持つと思う。

 詳しくは後日改めてご報告するとして,この調査結果とイチローの姿を重ね合わせるのは,あながち無茶ではないと思っている。年俸10億円超のイチローがWBCでの優勝に心から興奮し,「(野球選手にとっては“顧客”である)ファンが野球の面白さを改めて感じ,優勝を喜んでくれたことが,最高にうれしい」としみじみ語っていたからである。

 モチベーションを高めて,最高の仕事をやり遂げたイチロー。間もなく新シーズンが始まるメジャーでの活躍が,今年は本当に楽しみだ。