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「全事務職員がLinuxデスクトップを使用している町役場」は実在する

2006/05/10
高橋 信頼=ITpro (筆者執筆記事一覧
栃木県 二宮町庁舎
栃木県 二宮町庁舎
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総務部企画課課長 山口健司氏。机の上のモニターにはOpenOffice.org
総務部企画課課長 山口健司氏。机の上のモニターにはOpenOffice.org
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二宮町役場 経済課 石川純人氏
二宮町役場 経済課 石川純人氏
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二宮町 総務企画課政策推進室室長 増渕進氏
二宮町 総務企画課政策推進室室長 増渕進氏
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Linuxの画面。OpenOffceが起動している
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Linuxデスクトップ使用風景
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二宮町役場 総務企画課 海老原慎一氏
二宮町役場 総務企画課 海老原慎一氏
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役場内に置かれたペンギンのぬいぐるみ
役場内に置かれたペンギンのぬいぐるみ
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 二宮町は栃木県にある人口約1万7000人の町。二宮尊徳ゆかりの町名と「いちご産出量日本一」で知られる。同町は,町役場の事務用パソコンのすべて,約140台をLinuxに入れ替えるという前代未聞の挑戦を行っている。OSをLinuxにするだけでなく,オープンソースのOpenOffice.orgやFirefox,Thunderbirdでワープロ,Web,メールによる業務を行う。記者の知る限り,日本で例のない試みだ。

 同町が役場をあげてLinuxに移行することになったのは,IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施した「自治体におけるオープンソース・ソフトウエア活用に向けての導入実証」に参加したからだ。この事業は,オープンソース・ソフトウエアを自治体のデスクトップ機で使用する実現性と課題を明らかにするための実験である。同町は2月にLinuxへの移行を開始した。

 この実験には二宮町のほか,北海道札幌市,沖縄県浦添市,大分県津久見市が参加している。しかし他の自治体は規模が大きいこともあるが一部部署への導入にとどまる。役場全体でLinuxデスクトップに移行するのは二宮町だけだ。 正確には,税務や住基ネットなどの端末として使用しているパソコンは既存のWindowsマシンを継続して使用するが,そのほかの事務用デスクトップ・パソコンは町長のものも含め,すべてLinuxに取り替える。

 記者は導入前に一度,二宮町を取材した(関連記事)。「老朽化したパソコンや古いソフトを買い換えるお金を,住民サービスに回せるのなら」---日本中の多くの地方自治体がそうであるように,財政難に悩む二宮町は,オープンソースによるコスト削減に賭け,あえて実験台を買って出る,とその動機を語ってくれた。

 だがLinuxデスクトップへの移行は簡単ではない。移行をはなばなしく発表したものの,頓挫した企業や団体もある。本当に行政事務でLinuxデスクトップへの移行は可能なのだろうか。二宮町を再び訪ねた。

「心配していたが,Windowsとほとんど違わない」

 「ええ,毎日Linuxを使っていますよ」---二宮町役場 総務部企画課課長の山口健司氏は笑う。文書の作成やメールなど,Linux上のOpenOffice.orgやMozillaを使いこなす。「Windowsとまったく違うのではないか,と心配していたが,実際に使ってみるとほとんど違わなかった」。二宮町役場 経済課の石川純人氏は,こうLinuxとOpenOffice.orgの印象を語る。

 実は,記者は実際に現場を見るまでは,「本当に移行したのだろうか」と半ば信じられない気持ちもあったのだが,訪れた二宮町では,拍子抜けするほど職員が当たり前にLinuxデスクトップを使っていた。管理職から女性職員まで,約140台のLinuxを使いOpenOffice.orgやMozillaで業務をこなしている。

 IT担当の総務企画課情報管理室長 海老原慎一氏は「職員一人あたりたった1日の研修で,ぶっつけ本番に近い形でLinuxデスクトップを導入した」という。

 もちろん,細かい違いによる問い合わせはたくさんあった。例えばOpenOffice.orgのワープロを使っているときに「均等割付がうまくいかない」,「罫線の引き方が違う」といった声が寄せられたという。

 これらの問題に対応するために,導入当初はNECやノベルなどの協力ベンダーが常駐するヘルプデスク・センターを会議室に設置した。しかし,導入時に殺到した問い合わせも,導入から約2か月たった現在は減少。常駐ヘルプデスクは解散し,現在ヘルプデスクはメールなどで行っている。

 どうしてもWindowsが必要な時のために,各課には古いWindowsマシンが残してある。これらは,各LinuxマシンからVNCと呼ぶオープンソース・ソフトウエアを使ってリモート・コントロールできるが,「Windows機に貼りついている職員はいない」(海老原氏)。

「問題は“慣れ”,これからも使い続ける」

 移行が可能であることは実証された。ただし,それが経済合理性の面で引き合うかどうか,がこれからの課題になる。

 LinuxやOpenOfiice.orgなどのオープンソース・ソフトウエアのライセンス料金は商用ソフトウエアに比べ低い。しかし,価格が安いからといって,事務作業の効率が低下するのでは広がらないだろう。

 実際に二宮町でも,Microsoft Officeに慣れた職員が,OpenOffice.orgで同じ作業を行うのに手間取ってしまう作業がある。「しかし,Microsoft OfficeとOpenOffice.orgのどちらが劣っているとか優れているということはなく,問題は『慣れ』というのがほとんどの職員の意見」と海老原氏は言う。

 実証実験は今春に終了するが,そのあと再度WindowsやMicrosoft Officeに置き換えるという選択肢もある。しかし,二宮町では実験終了後もLinuxを使い続ける予定だ。面子からではない。そのほうが合理的だからだ。「要は慣れ。だとすれば,費用をかけてWindowsへリプレースするよりも,使い込んで,1日も早く慣れてもらうほうが合理的な選択」(海老原氏)

他の団体や企業にどこまで適用できるか

 二宮町では,「行財政緊急改革実践プラン」を実行中であり,コスト削減のための危機感を全職員が共有していたことでオープンソースへの移行が可能になった。だがそれをどこまで他の自治体や企業,団体に適用することができるのか。

 そのため,今回の実験では事務処理効率を比較するために作業時間の計測なども行っている。また,移行にあたってぶつかった問題やその解決策などもまとめ,公開する予定だ。

 習熟や,ノウハウの蓄積によりオープンソース・デスクトップはどこまで普遍的な選択肢となるのか。IPAは同町での実験に関する報告書を6月に発表する見込みだ。

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