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記者の眼

日本IT問題の象徴「東証事件」を徹底的に考えよう

2006/01/30 ITpro

 東証事件とは,2005年11月から2006年1月にかけて起きた,東京証券取引所の情報システムを巡るトラブルの総称である。東証事件は間違いなく,我が国のIT史に記録されるだろう。理由は二つある。第1は,複数の事件が起き,情報システムが持つさまざまな問題点が浮かび上がったことだ。11月1日のオンライン・システム障害,12月8日に起きた,みずほ証券の誤発注を東証システムが取り消せなかった問題,そして1月18日に証券取引の停止を招いたバッチ・システムの性能問題と,企業や組織における情報システム問題が網羅された恰好である。

 歴史的事件と呼ぶ第2の理由は,経営トップや幹部の進退に影響が及んだことである。東証社長とシステム担当役員は更迭され,新しいシステム担当役員がNTTデータグループから招聘(しょうへい)された。東証にオンラインシステムを納入した富士通は,社長はじめ幹部を減給処分にした。筆者は20年,IT関連の記者を務めてきたが,情報システムの問題で経営トップが辞任したのは東証事件が初めてと思う。また,東証のような歴史ある“日本企業”が,社外からシステム関連の幹部を雇うことも珍しい。

問題の構造的な分析が必要

 これだけ大きな事件であるから,メディアは多面的かつ構造的な分析を冷静にしなければならない。当たり前だが,事件の原因や対策は一つとは限らない。事件の全体像を鳥瞰(ちょうかん)し,そこに含まれている問題の所在を,問題同士の因果関係も含めて整理する必要がある。複数の問題点を抽出するには,経営やビジネスの視点と,技術やITの視点の両方で,事件を見なければならない。

 しかし日本のメディアが使っている辞書には欠陥があり,「冷静」「構造的分析」「鳥瞰」という文字は載っていない。そのためどうしても「興奮」し「糾弾」し「細かい新事実」を探り出すことに血道を上げてしまう。さらに言うとメディアは「経営責任」「損害賠償」という言葉はよく覚えているが,「技術」や「IT」についてはほとんど理解していないので,見当違いの報道が飛び交うことになる。

 何回か書いたことであるが,ここ数年,筆者は何か書こうとすると,どうしてもメディア批判になったり,自己批判になってしまう。東証事件でオンラインシステムの障害が起きたときも,日経ビジネスEXPRESSやnikkeibp.jpに「システム障害を巡る記事の書き方,教えます」と題した一文を書き,東証をはじめとする取引所ではなく,新聞報道の方を批判した。

 オンライン障害に続いて起きた,みずほ証券の誤発注に端を発する騒動については次のようなメディア批判を考えた。「誤発注があったからといって,いったん成立した売買を無効にし,儲けた証券会社に利益を拠出させるのはおかしい。日本が共産主義であることを世界に宣言するものだ。メディアはなぜ批判しないのか」。

 こちらについては諸般の事情により原稿は書かずじまいであった。2006年1月18日に,東証がバッチ・システムの処理性能が不足していることを理由に,通常より30分早く市場を締めたとき,メディアは「このような失態をしているようでは,世界の中で東証は見放される」と東証をたたいた。しかし筆者は,市場参加者に利益を戻すよう要請したことで,世界は日本や東証を異質な市場と見なしたと思っている。

経営者はシステム問題に責任がある

 メディアに続いて,筆者が意見を言いたくなる相手がある。それは,日本企業の経営者である。日本の経営者がもう少し,情報システムやITを理解していれば,情報システム開発・運営現場の余計な負担が軽減される,と筆者は考えている。もちろん,経営者の方々に「××すべし」と言っても聞いてもらえないから,先のWeb記事のように少しばかりの工夫をしている。

 東証の西室泰三会長兼社長は12月16日,情報システムの問題を重く見て,「CIO(最高情報責任者)を役員待遇で公募する」と表明したという。筆者は西室会長の発言に刺激を受け,1月13日の日経ビジネスEXPRESSに,「ITで社長を辞めないための三カ条」という一文を書いた。その骨子は,「企業や団体は,組織外からCIOをスカウトしてくるより,内部にいるエースを情報システム担当にするほうが簡単であり効果が大きい」というものだ。

 ちなみに,その一文の中で,「東証は情報システムの最高責任者であるCIOを公募するという。しかし,落下傘で舞い降りてすぐ仕事ができるCIOが日本にどれほどいるのだろうか。残念ながら心許ない。横並びが好きな経営者は,『うちもCIOをスカウトする』と言い出すかもしれない。無駄とは言わないが,それよりも自社内を探した方が早い」と書いておいた。その後,東京証券取引所は1月24日,NTTデータ出身者を2月1日にCIOとして招聘することを発表した。続いて大阪証券取引所は1月26日,NTTデータ出身者を4月1日にCIOとして招聘することを発表した。

 CIOが決まる前後から,東証事件について,日本の経営者にはっきり申し上げたいという気持ちが強くなってきた。幸いにも,筆者は書きたいことを書ける機会に恵まれた。日経ビジネスが1月30日号で「緊急特集 ライブドアが晒(さら)す日本の未熟」を掲載することになり,その中で東証事件について書くように指示されたのである。指示というのは,筆者が日経ビジネス編集委員を兼務しているからだ。

 気合いを入れて書いた原稿は1月30日号16ページに掲載された。題名は「東証の問題は経営にあり」である。この中で,筆者は東証がCIOを招聘しても,システムの問題は解決できないと断じた。筆者は東証・大証のCIOに就任する両氏とも面識はない。新聞報道を読む限り,お二人とも公的な大規模システムの開発運用経験をお持ちのITプロフェッショナルなのであろう。しかし,就任前からこういうことを書いて申し訳ないが,両名ともにその実力を発揮することは難しい。詳しくはぜひ日経ビジネスを見ていただきたいが,要するに,東証や大証に一番必要なのは,ITプロフェッショナルではなくて,経営のプロフェッショナルなのである。

IT担当者の問題はITにあらず

 メディアや経営者を攻撃してしまったが,それではITプロフェッショナル側に問題はないのだろうか。もちろん,IT側にはIT側なりの問題がある。それはITの問題というより,ビジネス側とのコミュニケーション問題である。大変難しいことではあるが,ITプロフェッショナルは,経営陣が理解できる言葉でITや情報システムについて説明し,理解を得ておかないといけない。経営側からIT側へ働きかけをしないのは問題だが,逆も問題なのである。

 経営者や一般消費者,そしてメディアは,情報システムをハードウエア設備の一種と考えている節がある。東証が「性能が不足しており取引時間を短縮せざるを得ない」と説明すると,「なぜ直ちにシステムを増設しないのか」と突っ込む。システムは急に更新できないと答えると「できないのは,東証がコンピュータ・メーカー任せにしており技術力がないからだ」となり,「それなら技術に強いCIOを呼べ」となってしまう。

 IT Pro読者の方々には言うまでもないが,情報システムはハードウエア設備ではなく,複雑な過程を経て生み出されるものであり,むしろ生き物に近い。経営者や一般利用者の意図や要請を整理し,ITプロフェッショナルが整理された要件をプログラムとして記述,そのプログラムをコンピュータ上で動かして,ようやく情報システムの誕生となる。こういった,ITプロフェッショナルにとっては当たり前のことについて,非ITプロの方々の理解は極めて乏しい。だからこそ「徹夜をして一晩で直せ」「瑕疵(バグ)をすべて取ってから動かせ」といった指示とは言えない指示が飛び出すのである。

 といって経営者や一般利用者を批判していても事態は好転しない。メディアの責任は重いが,ITプロフェッショナルの方々の責任もある。ITプロフェッショナルがITの価値,情報システム開発・運営の重要性と,そこにおける創意工夫と難しさ,をもっともっと世の中に発言していく必要がある。筆者はIT Proの運営方針を決める立場にないが,間違いなくIT Pro編集部は,そうしたプロの発言の場を意識しているはずである。

 さて,IT側の問題のすべてがコミュニケーションにあるわけではない。ITや情報システムそのものの課題もある。東証事件でいえば大きく二点であろう。一つは,300万人と言われるインターネット・トレーダーから送り込まれる大量の売買注文をどうさばくか,という,Web大量トランザクション問題である。

 もう一つは,バッチ処理の重要性である。売買が成立した後の約定処理システムのバッチ処理に限界があり,東証はシステムを止めざるを得なかった。東証の批判ばかり書いてきたが,西室会長がシステムを止めたのはビジネス側の英断であったと思う。一報,ITプロフェッショナルに投げかけられた課題は,バッチ処理の効率化と,バッチ・システムを設計・維持できるプロの育成であろう。バッチ処理は大変重要な分野であるにもかかわらず,派手さがないためか,なぜか注目されることが少ない。

 大量アクセス問題やバッチ処理問題を解いていくには,IT Proを読まれているプロフェッショナルの方々の知見が不可欠であろう。IT Pro編集部にお願いし,東証事件の情報を一望できる特番サイト「東証システム問題」を作ってもらった。現在の中身はIT Pro上で公開されたニュースが中心だが,本稿をはじめとするコラムや,いくつかの解説記事を追加していく。

 さらに,筆者が所属する日経コンピュータ編集部は,特別取材班を設置して,東証事件を追跡中である。日経コンピュータ2月6日号で,各証券取引所のシステム増強をレポートし,2月20日号で東証事件を総括する緊急特集を組む予定である。特集では,経営側とIT側,マネジメントとテクノロジーといったいくつかの軸を立て,東証事件から得られる課題と教訓を整理できればと思っている。そしてIT Proや日経コンピュータ読者の方々の意見を伺いながら,Webトランザクション問題とバッチ問題について,日経コンピュータ誌上で継続的に情報を発信していく所存である。

谷島 宣之=日経コンピュータ・日経ビジネス

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