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Jobs氏の講演終了とともに膝から崩れ落ちる

2006/01/12

 米国サンフランシスコで開催されている「MacWorld Expo San Francisco 2006」で1月10日(米国時間)に行われた米Apple CEOのSteve Jobs氏の基調講演の間中,記者は「AppleのSteve Jobs氏,米IntelのPaul Otellini CEO,米GoogleのLarry Page共同創設者兼製品部門担当社長の3人ががっちり握手を交わし,ホーム・エンターテインメント・ネットワークから米Microsoftとソニーを駆逐することを高らかに宣言する」というシーンが見られることを祈り続けていた。

 しかし皆さんがご存知の通り,記者が先日書いた「Jobs氏は明日「AppleViiv」を発表するだろう」という予測は完全に外れた。AppleのJobs氏はプロセッサをIntel製に乗せ変えた「iMac」とPowerBook改め「MacBook Pro」をお披露目し,IntelのOtellini氏は半導体生産ラインの作業服を着てJobs氏にシリコン・ウエハーを手渡すという道化を演じただけだった。GoogleのPage氏の姿を見ることはついぞなかった。

 もし記者の予想が当たった場合,記者は続いて「Wintelの終わりの始まり」と「デジタル家電にパソコンが逆襲,主役はApple」という記事を書くつもりだった。記者は別に,「Intelのプロセッサが優れている」「ホーム・ネットワークの主役はパソコンになる」と思って「AppleがViiv規格に参加する」と考えたわけではない。実際には,IntelはプロセッサでAMDに苦戦し続けるであろうし,パソコンはデジタル家電に主役の座を奪われると思っている。だからこそ,「Appleが出てくれば状況が変わるかもしれない」と思って,AppleがViivに参加するという予測を立てた。

 この点について少し言い訳をさせていただきたい。

Windows Vistaで優位に立つAMDの存在

 記者は2005年12月まで,休刊したWindows Server専門誌「日経Windowsプロ」編集部に所属していた。記者がMicrosoftをウオッチし続けて抱いていたのは「Windows Vista世代の“正式プロセッサ”はAMD64になる」という予感である。

 Microsoftとしては,ユーザーをWindows Vistaに移行させるための「目玉」として,64ビット(x64)を前面に出したいだろう。しかし現在,パソコン向けのx64プロセッサは,ほぼAMD製しか存在しないのが現状である。Pentium系にはx64プロセッサが存在するが,PentiumはCoreへの代替わり中だし,Coreプロセッサのx64対応はまだ先の話である。

 つまり,Microsoftが「Vistaは64ビット」と言うたびに,Intelにダメージを与えているのが今の状況である。既にMicrosoft社内において,Windows Vistaの開発環境に,AMD64のプロセッサを搭載するマシンが採用されているとも聞く。もしそうだとしたら,「Windows Vista x64 Edition」はAMD 64用OSということになり,Intelのプロセッサは「AMD互換プロセッサ」という位置付けになってしまう。

 既にサーバーの64ビット化では,AMDのOpteronの優勢が明らかである。Intelとしては,ここでMicrosoft・AMD連合に対して逆襲を図りたいことだろう。その逆襲の形が「Apple・Intel・Google連合」になる,と記者は想像していた。

パソコンはデジタル家電に勝てるのか?

 また記者は,前述のようにパソコンがホーム・ネットワークの主役になるという見方には懐疑的である。現在,消費者がデジタル家電を購入する際に判断基準としているのは,そのほとんどがハードウエア・スペックやブランド・イメージである。ユーザー・インタフェースを基準にデジタル家電を選択している消費者はまれだろう。というのも,大型家電量販店に行っても,多様なデジタル家電のユーザー・インタフェースを比較できるデモ環境が用意されているわけではない。

 汎用的なマシンであるパソコンが,専用機であるデジタル家電にハードウエア性能で勝るのは難しい。ユーザー・インタフェース以外に,パソコンがデジタル家電に比べて優位性を発揮できる面は見当たらない。しかも,「Windows Media Center Edition」のユーザー・インタフェースは,現状ではデジタル家電を大幅に上回っているとは言いがたい。

 もしユーザー・インタフェースに定評のあるAppleがデジタル家電的なパソコンを作れば,状況はかなり変わるのではないだろうか,というのが記者の心境であった。

 その一方でAppleにも,ホーム・ネットワークに入っていく上で越えなければならない難関が存在する。先の記事でも書いた通り,アキレス腱はDRM技術の「FairPlay」だ。

「CES熱」に浮かされていた記者

 記者が予測を外した最大の敗因は,「2006 International CES」の会場で,デジタル家電メーカーの見せた「HD動画への期待」「ホーム・ネットワークへの期待」に影響され,「Appleがホーム・ネットワークにやってくるのはほぼ確実」と考えたことである。本日の基調講演では,Appleのホーム・ネットワークへの参入は発表されなかった。

 MacWorldに集まる「Macウォッチャー」の知人たちは,記者に「Jobs氏のテレビ嫌いは有名」「Jobs氏の持つコンピューティングの理想像は,クリエイティブで能動的なものであり,テレビを見るような受動的な行為ではない」と指摘してくれた。記者は「Microsoftウォッチャー」ではあったが,Macについては門外漢であり使ったこともほとんどない。「Appleがホーム・ネットワークにやってくる」という見方自体が,甘かったと言えるだろう。

 その一方で,DLNAガイドラインのもとでの互換性や連携をうたいながら,暗号化技術や仕様の独自拡張を使ってホーム・ネットワークの「囲い込み」を図るベンダーの姿に,言いようのない不快感を感じていた。IntelのViivも独自拡張が見られるが,DTCP-IPを使うところが「かなりマシ」だったので,Intelの取り組みに期待感を持った。

 見苦しい言い訳ではあるが,Appleは本当にホーム・ネットワークに参入しないのだろうか。Video iPodでオンライン販売の「Saturday Night Live」(今回iTunes Music Storeで販売されることが明らかになったコメディー番組)を見ることと,リビングでHDの映画を見たりデジタル放送を見たりすることとは,クリエイティビティにおいてそんなに違いがあるものだろうか。

 サンフランシスコで膝から崩れ落ちながら,MicrosoftウォッチャーがJobs氏の基調講演の内容を予測する難しさを,記者はかみ締めた。

中田 敦=IT Pro

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