日経コミュニケーション 12月1日号の特集記事として,携帯電話事業者が開発を進める無線LAN対応携帯電話機の最新プロジェクトについて執筆した。

 今回スポットを当てたのはKDDIの未発表端末で,2006年春以降に発売する見通しのもの。この端末をオフィスの無線LAN基地局に接続することで,会議室にいても廊下を歩いていても内線電話がかけられる。屋外では普通の携帯電話機として使える。

 ただこれだけなら,それほど目新しい製品とは言えない。モバイル分野に詳しいIT Pro読者であれば,NTTドコモがちょうど1年前に発売した法人向け製品「N900iL」を思い浮かべる方もいるだろう。発売直後には,数百台のN900iLを導入して内線電話機として利用する企業ユーザーが続々と登場。法人の内線電話市場を広げたいPBXメーカーやシステム・インテグレータがこぞって飛びついた。

内線通話だけなら無線LANよりPHS

 だがこの1年で,販売する側も買う側の双方とも,無線LAN対応携帯に対する認識が少なからず変わったように思う。「PBXを更改する予定の企業は,商談に必ずといっていいほど“N900iLに対応しているかどうか”と条件を付ける」(あるインテグレータ)と,注目度は依然として高い。ただ,そうした商談であっても,実際に本格採用するまでには至らないことがほとんどだというのだ。

 これまで何度となくN900iLを取り上げてきながらも,正直なところ,企業ユーザーがN900iL導入をしぶるのは,「今のところは無理もない」と思う。

 企業ユーザーが導入をあきらめる直接の理由は「端末価格が高すぎる」,「音声品質を確保するためのシステム作りが大変」などさまざまだろう。だが結局のところは「苦労して導入しても,本当にメリットがあるとは思えない」というのが本音ではないだろうか。

 「端末を持ち歩いて,どこにいても内線電話をかけられるようにしたい」というだけなら,他の方法もとれる。PHS端末を使った事業所コードレス・システムならもっと安価で,かつ安定した内線電話網を構築できるはずだ。それ以上のメリットがないのなら,あえて無線LAN対応携帯を採用する必要性は薄い。

KDDIは内線機能も業務アプリもBREWアプリで実現

 もちろんN900iLの先行導入企業だって,この端末を単に内線電話機として考えているわけではない。彼らが最も評価しているのは,業務に役立つWebブラウザやインスタント・メッセージなどのアプリケーションを内蔵していること。企業のイントラネット端末として,事業所コードレスよりも大きな導入効果があるとみたからこそ採用した。この点が,企業ユーザーにとっての無線LAN対応携帯の最大のメリットとなるはずである。

 記者は,KDDIの新端末投入は,そうした無線LAN対応携帯が真価を発揮するように飛躍するきっかけになるのではないかと考えている。というのも,KDDIがN900iLにない“秘策”をこの端末に盛り込むからだ。

 その秘策とは,VoIP(voice over IP)ソフトやIMなどのアプリケーションそのものを,メーカーやインテグレータが自由に作り込めるようにするという方法。こうしたアプリは,KDDIが市販の携帯電話機に標準搭載しているアプリケーション・プラットフォーム「BREW」を利用して開発・実装する。

 要は(KDDIが認めた企業に限定されるものの)IP電話としての中核機能を開発する役割を他社に開放しようというわけだ。しかもそのアプリからは,位置情報など端末内部の骨格機能にもアクセスできる。

 この手法で期待できるのは,大手のPBXメーカーやインテグレータに限らず,さまざまなメーカーが無線LAN対応携帯向けの電話アプリや業務アプリを提供できること。つまり,柔軟な発想でユーザー・ニーズに合った内線ソリューションを構築できるようになる。NTTドコモのN900iLでは,ドコモ自身が規定した端末APIに従って,システム側を作り込むことしかできなかった。現にKDDIはデュアル端末開発の早い段階から,SOHO(small office home office)や個人向けのVoIP機器メーカーとも接触していたもようだ。KDDIは将来的に,この端末が家庭で手軽に利用されるようになることをも想定している,と記者は見る。
 
 冒頭の特集記事では,こうしたN900iLの進化系とも言えるKDDI端末を徹底解剖した。単なる内線電話利用にとどまらないインパクトをお伝えしているので,ぜひお読みいただきたい。